2023年度の本研究課題では、2021年2月のクーデターを契機にそれまでの経済成長経路から逸脱したミャンマーについて、クーデター以前の同国の成長経路を再確認する実証分析を行い、その結果を国宗(2024)にまとめた。 ミャンマーの外国為替・貿易管理制度は、同国の経済成長経路を読み解くカギの一つである。過去に同国では、裁量的な外国為替・貿易管理規制が、公定為替レートと市場為替レートの乖離を生んで、非公式な外貨取引と密貿易を活発化させ、同国のグローバル経済への統合を妨げて、低成長に押しとどめた。そして、2011年に始まった経済改革によって裁量的な政策が解除されていったなかで、改革前から続いていたミャンマーの企業間の非公式な中国元取引が経済に与える影響を分析することが、本研究課題の当初の目的であった。しかし、2021年のクーデターを境に経済改革が後退したため、裁量的規制の残滓としての非公式な外貨取引に着目していた本研究課題も、分析の焦点を見直すこととなった。 そこで2023年度は、2021年クーデター以前のミャンマーの経済成長経路を再確認するために、1970年から2019年までのデータを用いて経済成長の要因分解の分析を行った。分析の結果、ミャンマーの過去半世紀近くにわたる成長過程では、他のアジア諸国と同様に物的資本蓄積の貢献度が大きく、人的資本蓄積は貢献度が小さいものの安定的にプラスに作用していたことが確認された。他方、TFPはばらつきが大きく、また時期によってはマイナスになるなど、成長への寄与度は限定的であり、アメリカとの差も趨勢的に拡大傾向にある。とはいえ、ミャンマーのTFPは過去に経済改革が進んだ時期には伸びを示していたことから、同国においても開放的な経済政策が取られればTFPの変化をとおして経済成長にプラスの効果をもたらすことが示唆された。
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