これまでは10月から11月のティハール祭を主眼に祭祀活動と植物利用について調査を行い、ネパールでのマリーゴールド需要の実態と栽培、地域景観に与える影響について明らかにしてきた。現地でのマリーゴールドの開花全盛期はティハール祭前後の秋であるが、それ以外の時期についてのマリーゴールドの利用状況や栽培実態については情報が不十分であったため、今年度は2月のネパールカトマンズ地域において現地調査を行った。 カトマンズ市内では、常時マリーゴールドの販売は行われていたが、秋時期に比べて量としては少なく、販売価格も高い。また、これまで秋時期には市内のいたるところでマリーゴールドの鉢植え栽培に加え民家の屋上、路傍などの隙間等で野生化したものが見られたが、今回の調査では非常に少なかった。この時期、利用されるマリーゴールドは一般的に購入したものであり、その栽培地は市内から離れたカトマンズ盆地内にある。そこでは年中路地栽培がおこなわれており、栽培には灌水作業は必要だが、それ以外は比較的容易に栽培できるという。 ネパールの人々は日々、神々への供物として植物を必要とするが、特にマリーゴールドの黄色の花序は重宝される。供給量の少ないこの時期にはマリーゴールドに加えて、中国原産の植物であるオウバイの黄色い花序の利用も見られた。近縁種にはヒマラヤ原産のヒマラヤソケイが存在するが、開花時期が異なる。ヒマラヤソケイはネパールでは宗教上の意味を持つ植物とされ、伝統的に利用されているが、今回の調査では、形態的に非常によく似た外来種のオウバイを利用していたことが分かった。マリーゴールドとともにオウバイの例を通じて、本研究の重要な課題の一つであった文化的背景を伴う植物利用の種の選択と地域への定着要因の一つは、形態的類似と供給の容易さであることを明示できた。
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