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2018 年度 実施状況報告書

南アジアにおけるマイノリティの生存戦略―包摂と排除から共棲へ―

研究課題

研究課題/領域番号 18K11826
研究機関大東文化大学

研究代表者

井上 貴子  大東文化大学, 国際関係学部, 教授 (10307142)

研究分担者 須田 敏彦  大東文化大学, 国際関係学部, 教授 (00407652)
篠田 隆  大東文化大学, 国際関係学部, 教授 (20187371)
石田 英明  大東文化大学, 国際関係学部, 教授 (80255976)
研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2021-03-31
キーワードマイノリティ / 南アジア / インド / バングラデシュ / ダリト / ムスリム / 生存戦略 / 共棲
研究実績の概要

2018年度の研究実績は、主に、代表者及び分担者が各自の研究計画に基づいて調査地のフィールドワークを実施し、資料収集を行ったこと、各自が収集資料の整理と分析に取り組んだこと、今後の研究の方向性を明確化するために、南アジアのカーストや宗教などに由来するマイノリティ性を背負う諸集団が、先鋭化する対立と排除の論理を乗り越えて日常生活を営む「ゆるやかな共棲社会」の構想を共有したことである。
研究会は全部で4回実施した。第1回(4月24日)には、8月~9月に各自が実施予定のフィールドワークを中心とした研究計画について話し合った。第2回(6月19日)には、フィールドワークの準備状況について報告した。8月~9月には各自の計画に従ってフィールドワークを実施した。第3回(12月18日)には、フィールドワークの実施報告を行い、収集資料の分析と研究の進捗状況を報告した。第4回(2月13日)は、「ゆるやかな共棲社会」の理論的構想を共有し、次年研究計画を確認した。以上の研究会は科研分担者を中心に開催したが、関連分野の研究者にも出席を求め、情報の共有と意見交換を行った。
さらに、現地の研究者と構想を共有し、共同研究の可能性を広げる目的で、来日インド人研究者と2回の研究交流会を開催した。9月20日には、インドのデリーからジャワハルラール・ネルー大学教員と学生が訪問、日印交流の推進を含む研究会を開催した。10月6日には、インドのマハーラーシュトラ州からアムラーヴァティー大学教員と学生が訪問、日本のNPO法人で同大学と協力して農業技術交流を推進している「太陽と水と緑のプロジェクト」との合同で研究交流会を開催した。
以上、専門地域でのフィールドワークを通じて、マイノリティの日常的生存戦略に迫り、研究会を通じて、南アジア社会を分断し対立を助長する諸問題にアプローチする視点を相互に共有することができた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

2018年度は、各自がフィールドワークを実施して必要な資料収集を行った。収集された資料の整理と分析は個別に進めており、実施内容とその後の研究の進捗状況を研究会で報告し、情報を共有した。井上貴子は主にチェンナイとバンガロールで、パライヤルと呼ばれるダリト・カーストの政治社会運動と文化活動に関する調査を行い、カースト政治、宗教的アイデンティティ形成、文化活動との関係について分析を進めた。篠田隆はアフマダーバードの中小零細企業の経営者の出自と属性に関する資料を収集し、経営者への聞き取り調査を行い、後進諸階級出身の経営者が抱える問題の洗い出しを進めた。石田英明はインド国内の複数の高等教育機関で、宗教的マイノリティであるムスリム学生のヒンディー語とウルドゥー語の理解度についてアンケート調査を行い、ヒンディー文学におけるムスリム作家の位置づけの前提となる若者のヒンディー語に対する意識について分析を進めた。須田敏彦は、バングラデシュとインド・西ベンガル州で女性労働者と中学生に聞き取り調査を行い、就労意識や将来展望にかんする分析を進めた。以上、個別のフィールド調査は滞りなく実施された。また、分析の際に重要な視点となる「ゆるやかな共棲社会」の構想については、主に井上貴子が、理論的背景となる文献の紹介と解読、それに基づく具体的な構想についての報告を行い、研究会で全員に共有した。したがって、個別の研究と課題全体にかんする情報の共有と意見交換という側面では、おおむね順調に進展しているといえる。
なお、従来の計画では本研究課題の専用ウェブサイトを立ち上げ、研究の進捗状況や必要な情報を随時ウェブ上で公開、さらに、収集資料のデジタル化も進める予定であった。しかし、年度内にデジタル化作業の補助を行う適切な人材がみつからなかったため、この点については2019年度の課題とすることになった。

今後の研究の推進方策

本研究課題2年目の全体目標として最も重要な計画は、初年度に実施できなかった専用ウェブサイトを立ち上げることである。研究の進捗状況、収集資料の分析、必要な情報などを随時ウェブ上に公開することによって、本研究課題の意義と重要性を社会一般に発信、共有していく。次に、これまで個別に収集した資料をデジタル化して一括保存することによって、資料の共有と適切な利用を実現すると共に、個人情報の厳格な一括管理体制を構築することである。
個別の計画としては、初年度に実施されたフィールドワークでの収集資料を整理分析し、「マイノリティの生存戦略」の具体的な実態を明らかにし、それに基づいて「ゆるやかな共棲社会」を構築するための具体的な方策を立案していくことである。井上貴子は、南インドのダリト・コミュニティにおける宗教と政治と文化活動の関係について分析を進め、アイデンティティ構築と具体的な生存戦略との関係について考察を進める。篠田隆は、中小企業経営者の範囲をダリトからムスリムへと広げ、経営実態や彼らの抱える問題について比較考察を進める。石田英明は、ムスリムのヒンディー語作家の作品を複数取り上げ、ムスリム性が作品にいかに現れているのか、ウルドゥー語との関係を視野に入れて考察を進める。須田敏彦は、バングラデシュとインド・西ベンガル州の若者とバングラデシュ女性の海外出稼ぎ労働希望者の実態調査を通じて収集した資料の分析を行い、社会経済的後進状況におかれたマイノリティの生存戦略としての教育問題や出稼ぎ労働、さらにマイクロファイナンスの果たす役割について考察を進める。
以上、初年度に収集された資料の分析を個別に進めると共に、年4回の研究会を実施、分析結果を共有し、意見交換を行う。また、最終年度に予定している学会等でのパネルやシンポジウムの開催計画、さらに成果報告書の出版計画にも着手する。

次年度使用額が生じた理由

当初の計画では、初年度に本研究課題の専用ウェブサイトを立ち上げ、研究の進捗状況や必要な情報を随時ウェブ上で公開、さらに、収集資料のデジタル化も進める予定であった。そのためにウェブサイトの作成・維持管理とデジタル化作業を補助するアルバイトを雇用する計画であった。しかし、年度内にデジタル化作業の補助を行う適切な人材がみつからなかったため、これを翌年度の課題とすることになった。したがって、そのためのアルバイト費用を2019年度に繰り越して使用する。この作業の遅れを取り戻すために、当初予定よりもアルバイトの勤務日数を倍に増やして対応する予定である。

  • 研究成果

    (16件)

すべて 2019 2018

すべて 雑誌論文 (4件) (うちオープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 5件、 招待講演 8件) 図書 (1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)

  • [雑誌論文] 仮面の力―南インドのナラシンハ信仰と芸能―2019

    • 著者名/発表者名
      井上貴子
    • 雑誌名

      『宗教史学論叢 媒介するもの/モノの宗教史』宗教史学研究所

      巻: 第23、24巻 ページ: 印刷中

  • [雑誌論文] インド・グジャラート州の中小零細企業と宗教・カースト2019

    • 著者名/発表者名
      篠田隆
    • 雑誌名

      『大東文化大学紀要(社会科学)』

      巻: 57 ページ: 95-113

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] Book Review "Remittance Income and Social Resilience among Migrant Households in Rural Bangladesh by Mohammad Jalal Uddin Sikder, Vaughan Higgins, and Peter Harry Ballis"2019

    • 著者名/発表者名
      須田敏彦
    • 雑誌名

      The Developing Economies

      巻: Mar-19 ページ: ―

  • [雑誌論文] インドにおける食料消費・食習慣の変化と宗教・社会集団―「インド人間開発調査」個票データの分析―2018

    • 著者名/発表者名
      篠田隆
    • 雑誌名

      『東洋研究』大東文化大学東洋研究所

      巻: 208号 ページ: 1-27

  • [学会発表] 大安寺から辿る―ルーツとしての天竺のパフォーミング・アーツ―2019

    • 著者名/発表者名
      井上貴子
    • 学会等名
      大安寺歴史講座Ver.10「大安寺、天竺と日本をつなぐ―平城京のパフォーミング・アーツ」
    • 招待講演
  • [学会発表] 聖と俗のはざまで<愛>を歌い踊る―クリシュナ神をめぐる断章―2018

    • 著者名/発表者名
      井上貴子・野火杏子
    • 学会等名
      日本南アジア学会設立30 周年記念連続シンポジウム仙台大会「南アジアにおける表象と身体」
    • 招待講演
  • [学会発表] 日本の南インド系住民と共に作る音楽活動2018

    • 著者名/発表者名
      井上貴子
    • 学会等名
      「風のように旅をする音楽―小笠原、日本、ブラジル、インド―」企画講演会
  • [学会発表] Indo-Japan Cultural Relations through Buddhism and Allied Performing Arts2018

    • 著者名/発表者名
      井上貴子
    • 学会等名
      Special Lecture at VIT - AP
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Indo-Japan Cultural Relations through Buddhism and Allied Performing Arts2018

    • 著者名/発表者名
      井上貴子
    • 学会等名
      Guest Session on India-Japan Relations, Department of International Studies and History
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Between Individuality and Cooperativity: Fandom of Visual Kei Subculture in Japan and KIZUNA in an Umbrella Fan Community2018

    • 著者名/発表者名
      井上貴子
    • 学会等名
      Lecture at ABBS 'Differences and Similarities between Indian and Japanese Organizations'
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] ポピュラー音楽研究の動向―音楽学と社会学のアプローチから―2018

    • 著者名/発表者名
      井上貴子
    • 学会等名
      政治経済学・経済史学会秋季学術大会 パネル・ディスカッションE「音楽をとりあげる政治経済学的意義」
    • 招待講演
  • [学会発表] Indigenization of Traditional Performing Arts in Japan: Transformation of Indian Elements in Gagaku2018

    • 著者名/発表者名
      井上貴子
    • 学会等名
      'India and Japan: Unearthing Lesser-known 16th to Early 20th Century Linkages' India International Centre & Mombusho Scholars Association of India (MOSAI)
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Musical Activities among South Indians around Tokyo2018

    • 著者名/発表者名
      井上貴子
    • 学会等名
      'Through the Looking Glass' MSA/ACMC/Indigenous Symposium
    • 国際学会
  • [学会発表] 大安寺から臨む―天竺の地理的イメージと古代の世界観―2018

    • 著者名/発表者名
      井上貴子
    • 学会等名
      大安寺歴史講座Ver.10「大安寺、天竺と日本をつなぐ―平城京のパフォーミング・アーツ」
    • 招待講演
  • [図書] インドにおける経営者集団の形成と系譜2019

    • 著者名/発表者名
      篠田 隆
    • 総ページ数
      536
    • 出版者
      日本評論社
    • ISBN
      978-4-535-55936-3
  • [学会・シンポジウム開催] アムラーヴァティー大学・NPO法人「太陽と水と緑のプロジェクト」合同研究集会2018

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公開日: 2019-12-27  

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