研究実績の概要 |
本年度は多重エッジ放射干渉効果の基礎的な面を明らかにすることに集中した。以下では多重エッジ放射干渉効果を実現する3極ウィグラーの周期的配置をEdge Radiation Undulator (ERU)と呼ぶ。ERUについて単純な解析的モデルを用いて、その放射電場の一般形を定式化し、これにより放射スペクトル及び空間分布について結果を得た。ERUスペクトルには、アンジュレータにやや似た自然数(次数)で決まる高次光の構造があることがわかった。ERU放射の角度分布は、ERUの長軸を中心に同心円状に分布する構造を持っており、この同心円を構成するリング状の放射分布の一つ一つが高次光の次数に対応する。またプラナーアンジュレータの放射と解析的な比較を行った。ERUの放射強度は、アンジュレータ放射とほぼ同等であることがわかった。一方でプラナーアンジュレータ一の放射とERU放射の間に意外な関係があることも判明した。プラナーアンジュレータにおいて特定のK値(K=√2)の時に近似的にERUの放射条件が成立し、ERU特有のリング状放射がアンジュレータ放射の一部として放射されることが数値計算から示された。以上の結果をまとめ、ERU放射特性およびアンジュレータ放射との関係について論文として2022年2月に発表した(S. Koda, et. al., Jpn. J. Appl. Phys. 61 036001, 2022)。 本研究課題全体からの観点では、当初ERU放射の基礎的解明と現実の磁石系に適用できる応用性の高いERUモデルの構築を進める予定であったが、応用性の高いERUモデル構築ついては、ベースとしたParaxial理論に課題があることがわかり、最終的にERU放射の基礎的解明に集中した。その結果、解析的にはERU放射はアンジュレータに匹敵する放射強度を有するという興味深い結果が得られた。
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