研究課題/領域番号 |
18K12232
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研究機関 | 聖徳大学 |
研究代表者 |
難波 阿丹 聖徳大学, ラーニングデザインセンター, 准教授 (90781089)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アテンション / アフェクト / アトラクション / エフェクト(効果) |
研究実績の概要 |
これまでの映画研究分野では、1900年代のアメリカの初期映画「アトラクション・フィルム」を対象にして、動画の中に静止画面を入れるなどの観客の注意を意図的に引き付ける「アテンション管理」の映像技術が研究されてきた。 本年度においては、1910年前後の古典的なハリウッド映画を題材に、物語と映画館の両者が組織的に展開した観客のアテンション管理を考究するための基礎として、博士学位論文「映像・情動・身体:情動的観客とハリウッドの物語映画」を完成させた。 本論文では、古典的な「物語映画」の父とされ、物語の面からの研究対象とされてきたグリフィス監督作品のうち『国民の創生』(The Birth of a Nation, 1915)を主題に、視覚と聴覚の両側面から表現形式を検討し、トマス・ディクソンの原作『クー・クラックス・クラン革命とロマンス』の複雑な物語展開が同作においては単純化され、観客の視覚の定点となるスチールイメージを織り込むことによって、観客の「アテンション管理」がなされている点を明らかにした。そして、本研究課題に関連する、観客の身体的な動性を方向づけるアトラクション、エフェクト、アテンション、アフェクトの作動を理論図式として示した。この成果によって、近年のデジタルメディア環境が観客(ユーザー)のアテンションをいかに管理するかという、本研究が照準する問題解決の基礎となる解釈の枠組みを提起することが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では、映像技巧や映画館の上映環境に着目し、観客の視覚や聴覚を含むさまざまな感覚に作用するメカニズムを明らかにするため、グリフィス監督『国民の創生』を題材に博士学位論文を完成させた。 この成果は、今後、本研究課題のテーマの一つである今日テレビやYouTubeといった動画サイトが、人々の考える力を喪失させて文化や社会行動を誘導しているしくみの解明とその対策の礎の構築に貢献することが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
博士学位論文では、これまでに映画研究において繰り返し論じられてきたアトラクション、エフェクト、アテンション、そして、近年、文化理論で活発に議論がなされているアフェクトの作動を理論図式として表し、映像と観客の身体との関係性を理解する方針を提示することが出来た。しかしながら、それぞれの概念の相関について、ひとつひとつ具体的に掘り下げていくことは出来なかった。今後は、本研究に関連する課題として、アテンションとアフェクトの関連性、および、アトラクションとエフェクトの映画研究分野での位置づけについて、より深く理論的に掘り下げていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度においては、産・育児休業を取得し本研究を一時中断したので、当初計画していた機器購入や出張を次年度以降に行うこととした。その間、本研究の礎となる博士学位論文を完成させた。次年度では、映画観客のアテンションを管理する技術について、1990年代以降の非表象・テクスト分析的な映画研究を参照し、博士研究を更に深化させていく必要がある。そのために、ショット内部の視覚構成や編集分析を行う情報機器を購入・活用し、映像がプロジェクタースクリーンを介して観客の身体に及ぼす影響を理論化する。また、1910-20年代前後の物語映画産業における映画の上映技術について、基礎資料の収集を行う。
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