長らくCOVID-19の影響でフィールドワークを実施できなかったが、22年度は夏季にカッパドキア(トルコ)へ渡航する機会を得た。「聖母の眠り」図像の調査を行いつつ、今後の研究の萌芽となり得る他主題の調査も精力的に実施した。また調査で得た知見に基づき、パンジャルルク・キリセの図像の特異性について問う論文を準備中である。 本研究課題では、当初予定よりフィールドワークの機会が少なく、研究にとって重要な資料となる現地の聖堂図像の収集が進まなかったことが悔やまれる。また、ロシアの聖堂について本研究で取り組む予定であったが、世界情勢の激変により難しいものとなった。しかし、特にカッパドキアについて豊富な資料を収集しすることができた。保護・修復が行き届かない岩窟聖堂に関しては、こういった写真資料のアーカイブ的価値も重要となる。また研究成果として「聖母の眠り」図像のカッパドキアにおける構図、聖堂内の配置等について再検討を加えた。これらはいずれもカッパドキアに「古い」図像が遺されていることを示唆する。 小アジアは1071年のマラズギルトの戦い以降、ビザンティン中央から切り離されたことが指摘されるが、「眠り」図像のあり様はそのような歴史的状況を反映する、あるいは歴史理解を補強するものとして重要な資料となろう。美術史的観点からはビザンティン聖堂装飾プログラムに新たな知見を加えることとなり、ビザンティン美術と正教会の豊穣な知的営為を理解する一助となることが期待される。
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