研究課題/領域番号 |
18K12267
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研究機関 | 静岡文化芸術大学 |
研究代表者 |
井上 由里子 静岡文化芸術大学, 文化政策学部, 准教授 (70601037)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ヴァレール・ノヴァリナ / アール・ブリュット / 翻訳論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ヴァレール・ノヴァリナの演劇理論と言語創造においてアール・ブリュット理論がどのように受容されたか、また、テクストに摂取されたアール・ブリュット理論が俳優術においてどのような展開をみせるかを明らかにすることである。 前年度に発表者として参加した、ノヴァリナの翻訳をめぐる国際シンポジウムの論集への執筆依頼があり、編集担当者ら(リール第三大学、チューリヒ大学等)とメールで議論を重ね、考察を深めた。その結果、ノヴァリナが翻訳論においてもアール・ブリュット理論を受容し、俳優だけでなく翻訳者にも近代的知の脱学習を求めていることが明らかになった。こうしたノヴァリナの翻訳論を解きほぐす仕事は、ノヴァリナ研究はもとより翻訳研究の分野にも新たな視点を提示するものである。現在フランスで論集の刊行準備が進められている。 上記の国際共同研究を通して、ノヴァリナにとってアール・ブリュット理論が重要であるだけに一層その受容と展開の様相が複雑化していることが浮き彫りになった。本質を探るべく、これまでに収集した俳優術に関する文献の読解を行い、鍵概念(「脱学習」「中動態」等)を抽出した。 本年度は、感染症拡大のため研究計画の変更を余儀なくされたが、その一方で、折々にオンライン調査(上演視聴等)の機会が増え、高齢者や路上生活者、受刑者等、正規の演劇教育を受けていない人々の上演芸術について知見を広めることができた。それによって、本研究のおもな対象である障害者演劇の特質や位置づけを探る手がかりを得た。 2018(平成30)年度にスリジー国際会議で行った研究発表が、論文集『Valere Novarina. Les tourbillons de l'ecriture』に収められ、2020(令和2)年10月に刊行された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
最終年度にあたる2020(令和2)年度はノヴァリナのテクストの本邦初の上演を予定しており、10月にドイツ人俳優を招聘する計画を進めていたが、感染症拡大により海外からの渡航が難しくなり、先方と相談の上、次年度に繰り越すことにした。 研究成果をまとめる計画を立てていたが、学内・学会でのオンライン対応と予定外の論文執筆依頼とが入り、これも次年度に行うことにした。当初の計画になかった論文執筆依頼を引き受けたことで少し遅れは出たが、海外のノヴァリナ研究者らとの議論は研究の内容に大きな収穫をもたらした。
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今後の研究の推進方策 |
補助事業期間延長が承認されたため、今年度実現できなかった計画を2021(令和3)年度に進める予定である。 まず研究成果を論文にまとめる。具体的には、ノヴァリナの演劇におけるアール・ブリュット理論の受容と展開の実態を整理した上で、「脱学習」と「中動態」概念を軸にその本質を探る。 感染症収束の暁には、ドイツ人俳優を招聘しノヴァリナのテクスト上演とワークショップを開催し、研究成果を広く社会に還元したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の助成金の多くをノヴァリナのテクスト上演に伴う旅費と謝金に充てていたが、感染症拡大により計画が実現困難になったため、次年度に繰り越すことにした。
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