本研究の目的は、ヴァレール・ノヴァリナの演劇理論と言語創造においてアール・ブリュット理論がどのように受容されたか、また、テクストに摂取されたアール・ブリュット理論が俳優術においてどのような展開をみせるかを明らかにすることである。 本年度は、昨年度にひきつづき、ドイツ人俳優を招聘しノヴァリナのテクスト上演とワークショップを開催し、研究成果を広く社会に還元することをめざしていたが、新型コロナウィルス感染症拡大のため研究計画の変更を余儀なくされた。 その一方で、ドイツのInstitut francais Berlinで開催された国際シンポジウムAtelier de la pensee autour des traducteurs de Valere Novarinaにおいて、ノヴァリナの言語の翻訳論について口頭発表を行ったほか、白水社刊行の月刊誌『ふらんす』上で「日仏演劇の舞台裏:変わりゆく創作方法」という全6回の連載を担当したことで、計画と異なるかたちではあるものの、研究成果を社会に還元するという当初の目的を果たすことができた。 また、日本演劇学会の分科会である近現代演劇研究会において「ダンスが生まれるとき:中嶋夏〈心と身体の学級〉をめぐって」と題する口頭発表を行った。暗黒舞踏と障害という主題は当初予定していたものではなかったが、ノヴァリナの俳優論から導きだした新概念「コール・ブリュット(生の身体)」が20世紀前衛演劇の理想的身体であるという仮説を裏付けることができた。今年度開始した基盤研究(C)「傷つきやすさの創造性」において論文などの形にしたい。
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