2018年度は2回の国内学会の発表、および1回の国際学会発表を行った。また、基礎的な研究対象となるテクストの読解に多くの時間を割いた。2019年度は5回の国内学会や研究集会における発表を行った。科研費課題にかかわるテーマに最もかかわりが深いものは、2019年6月2日、法政大学で行われた第53回アメリカ学会年次大会、部会D「メディアの変革、文化の変容」で発表した「触覚的直接性と視覚的シンメトリー――ジェイムズ・エイジーとウォーカー・エヴァンスの『今こそ有名な人々をたたえよ』における「忘れられた人々」の表象と倫理」である。ここでは、エイジーとエヴァンスの共作である『今こそ有名な人々をたたえよ』のテクストの現象学的な「モノ」の描写の精緻さを写真の対象に対する眼差しと比較しながら、1930年代の不況時代における南部の貧しき人々の描写の特徴について考察することが出来た。ここでの発表内容をもとに、1930年代におけるイメージとテクストの関係性についてさらに考察を深めていきたい。 他の学会発表は直接、科研費課題とかかわりはないが、この科研費課題から発展的に次の課題として見えてきた現代アメリカ文学・文化における「ディストピア」をめぐる研究の基礎となった。 執筆面では『ユリイカ』に3本の論文をスパイク・リー(「「稲妻(の速さ)で歴史を書く」――『國民の創生』と『ブラック・クランズマン』における引用、真実、歴史」)、クエンティン・タランティーノ(「「デュマは黒人だ」――『ジャンゴ 繋がれざる者』における奴隷制度とその外部 」)、トニ・モリスン(「深い皮膚――『神よ、あの子を守りたまえ』における商品化された「黒さ」と触覚的身体」)特集号に寄稿した。それぞれ扱っている素材は異なるが、テクストや映像の歴史とのかかわりについて考察することが出来た。
|