契丹語は、契丹国[遼](907-1125)を建国したことで知られる契丹族が使用した言語で、現在は死語となっている。契丹語は、モンゴル系の言語であると考えられており、初期モンゴル語史の研究において重要な位置にある言語である。契丹語は主に契丹文字によって記録されている。契丹文字は、「契丹大字」と「契丹小字」と呼ばれるの2種類の異なった文字体系からなる。近年の研究によって、契丹小字に関しては主要な文字素の音価・意味の特定が明らかとなっているが、契丹大字に関しては解読が遅れている。本研究は、契丹小字の解読成果を契丹大字に適用することによって、契丹大字の研究を行い、その表記システムを明らかにすることを目的としている。契丹文字・契丹語の研究は、契丹小字テキストを対象とした研究が多く、契丹大字テキストに対する研究は手薄である。申請者は、契丹小字テキストだけではなく、契丹大字の文字素の整理や電子化など基礎的研究を進めており、契丹大字と契丹小字のいずれも扱ってきた。本研究は、これまで申請者が進めてきた研究を基礎として、契丹大字と契丹小字の比較研究を進め、契丹大字の更なる解明を目指すという重要な意義がある。 研究期間においては、契丹大字テキストと契丹小字テキストの比較研究を進め、同語表記の収集を基礎とし、契丹大字の音価推定を進めた。その過程で、契丹語の数詞に関する新たな発見があり、研究成果として発表してきた。最終年度である2022年度には、研究成果のとりまとめとして、契丹語テキストにおける年齢表現に関する論文、および契丹大字で表記された契丹語の数詞に関する論文を執筆した。これらは今年度および来年度出版される予定である。また、契丹大字・契丹小字テキスト中の中国語からの借用語についてまとめた研究を現在出版準備中である。
|