正倉院文書は写経事業に伴って形成された史料群であるが、近年、その事業によって形成された経巻群との比較研究が盛んに行われている。これを敦煌文書・敦煌写経に応用し、正倉院文書・奈良時代写経との比較を行うことで、日中において作業工程の一部が異った形で実施されていることが判明した。写経事業やその工程は日本において独自に創出されたものではなく、同時代の中国および朝鮮半島の影響を受けて始められたものであることから、その継受の過程で新たに生み出された工程、もしくは中国でも敦煌では失われてしまった工程と考えられる。このように写経工程全体の復原からしか把握できない情報を指摘しえたことが本研究の学術的意義である。
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