本研究は、アメリカ合衆国の諸法域(連邦・州)の証拠開示等の法制の比較を通じて、①証拠開示の遺漏なき実効的な実施のための方策や運用、及び、②検察官による証拠開示と当事者主義の関係の理解等に関して示唆を得ようとするものである。昨年度までは、主として、検察官が憲法上義務を負う証拠開示の実効的実施をいかに担保するかという観点から、諸法域・諸機関等で採用されている方策に関する研究成果を発表してきたが、本年度は、州で採用されている証拠開示に関わる制度に関して、これまで行ってきた研究成果をまとめ、「合衆国における証拠開示に関わる州の取組み」と題する論稿を駒澤法学に提出した。同稿では、証拠開示に関わる施策が合衆国では依然活発であり州では先駆的な取り組みも見られることやそれらの背景を指摘した上で、Open-File Disoveryとよばれ、一部の州で採用されている、検察官や捜査機関が被告事件に関して保管する証拠や資料を全面的に、あるいはそれに近い、かなり広い範囲で被告人側に開示する制度の当否を検討した。州の中で最も徹底した内容のOpen-File Discoveryを採用しているのはノースカロライナ州であるところ、その制度内容を分析し、誤判の防止、検察官の憲法上の開示義務の履行担保、当事者主義や裁判の公正さ、手続の迅速化・効率化、弊害・コストへの対処といったその導入論の中で挙げられる各種の観点から、その合理性について検討を行った。特に上記②との関係では、検察側は被告人側に対して著しく大きな証拠収集能力を有している現状があるところ、当事者主義の原理的・本来的な前提として、検察官に訴追側の保管証拠の全面的な開示が要求されるといえるのかについて掘り下げた検討を行い、必ずしもそうとはいえないという結論を導いた。
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