研究課題/領域番号 |
18K12795
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研究機関 | 大阪学院大学 |
研究代表者 |
奥山 尚子 大阪学院大学, 経済学部, 准教授 (80617556)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 利他的行動 / 寄付 / ファンドレイジング / 年齢効果 / 寄付の異質性 / 消費 / 資産保有 / 労働供給との関係 |
研究実績の概要 |
2019度は、(1)災害救援・復興を目的とした寄付支出の決定要因に関する分析について研究成果をとりまとめと論文発表、(2)環境配慮の目的税への支払意思額の決定要因の分析の継続、(3)寄付と消費、資産保有、労働供給の関係に関する分析に取り組んだ。 (1)では、公務員の東日本大震災時における寄付行動について分析した。本申請課題の研究関心のひとつである労働環境・経験を通した納税意識や機会費用に対する評価、他の経済行動やそれに起こる変化と寄付行動の関係を探ることを目的として、公務員に着目して分析を行った研究である。分析の結果、公務員の経済状況、就労環境を背景として、既存研究で明らかにされている彼らの平時の寄付行動や利他的な就業動機に関する知見が災害時では限定的である可能性や、災害時の政策的措置が彼らの寄付行動に影響を与えた可能性があることがわかった。研究成果は論文に取りまとめ、査読付学術誌に採択された。 (2)では、マレーシアのアンケート調査の個票データを利用して、環境配慮を目的とした目的税への支払意思額に対して、個人の文化的な属性や選好が及ぼす影響について検証している。親や子への金銭援助、チャリティへの寄付に対する支出意思額も対象とした分析を行って比較し、民族、宗教、世界観が利他的行動に及ぼす影響について検証した。2019年度の研究成果の発表には至っておらず、引き続き研究を継続中である。 (3)では、都道府県別のマクロデータを使ったパネル分析を行っている。世帯の寄付支出に対する消費支出、貯蓄、雇用状況、向社会的な慣習の影響を調べるものである。セミナーでの研究報告が延期となり、2019年度中の成果発表ができなかったが、2020年度中に報告と論文としての取りまとめを行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題での計量分析の実施には、世帯構成や労働経験、経済的選好を含む主観的指標に関する詳細な情報や、操作変数の候補となる情報が必要である。既存データではこれらの必要な情報について一部しか含まれていないため、新たにアンケート調査を実施して、独自の個票データを得る必要がある。当初の計画では、2018年度にアンケート調査を実施することにしていたが、既存調査のデータを使った予備分析に係る論文執筆や学会発表に時間を要したため、アンケート調査の実施を延期した。 2019年度においても同様の理由で、調査準備に留まり、実施には至らなかった。ただし、既存データを使った予備分析をいくつか進め、研究成果としても取りまとめた。これらの作業と得られた知見から、アンケート調査を精緻化するためのポイントや具体的な対策に関する情報やポイントが得られたことは収穫である。調査については、継続的に調査会社との打ち合わせを行っており、次年度以降での実施へ向けての情報収集や準備を進めている。 既存調査のデータを使った予備分析については、「研究実績の概要」で示した3つの分析を行い、その一部を研究成果として査読付学術誌に論文発表し、採択されている。
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今後の研究の推進方策 |
アンケート調査の実施について計画変更を考えている。2018年度および2019年度の研究進捗や研究費の執行実績、2020年度当初からの国内の経済・社会情勢等を踏まえて、改めて実施時期、サンプリング、アタック数などを見直す必要があると思われる。調査設計や実施、分析手法について、専門家の協力を得る必要があると判断した場合には、速やかにアプローチする。研究代表者が現在関わっている研究会や研究プロジェクト等において、相談や指導等を求めることが可能な研究者が多くいるので、こうしたネットワークも活用したい。 2020年度以降の研究計画については、原則、当初の計画通りに進める予定である。ただし、これまでの遅延部分を挽回し、当初の研究目的・計画を遂行するために、新規の分析作業は控え、これまでの分析課題を確実に成果として取りまとめること、具体的な作業行程を立てること、専門家からのインプットを多く得ること、に注力する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度については、当初当該年度には予定していなかった海外学会での研究報告を2度行うことになり、外国旅費が発生したこと、既存データを使った予備分析とその成果報告に時間要したため、アンケート調査の実施を延長したことによる。 2019年度については、初当該年度には予定していなかった海外学会での研究報告が不採択となり、外国旅費や大会参加料等の支出がなくなったこと、一方で学術誌への投稿に伴う英文校正料が当初予定より増えたこと、国内での打ち合わせについて、Web会議サービスを利用したことにより、国内出張の支出が減ったことなどによる。 アンケート調査については、これまでの研究成果の知見と研究進捗、および調査費用に充当できる研究費を踏まえて、その仕様を改めて精査していく。 海外出張や国内出張については、2019年度末からの国内外の経済社会状況を踏まえると、計画が大きく変わる可能性がある。そこで、執行の優先順位を変えたり、アンケート調査をより充実させるための予算計画の変更なども検討する必要があると考えている。研究費を無駄なく、また効率的に執行し、アンケート調査費用が十分に確保できるように予算の執行管理に努める。
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