研究課題/領域番号 |
18K13069
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
香川 七海 日本大学, 法学部, 助教 (20816368)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 戦後史 / 戦後教育史 / 社会科教育史 / 算数・数学教育史 / 教育方法史 / 教育実践史 / 民間教育研究運動(民間教育運動) / 社会運動 |
研究実績の概要 |
初年度は、三分野の研究活動に取り組み、それぞれ活字業績をまとめることができた。以下にその研究成果を概説する。 まず、第一に、社会科教育史に関する研究を行った。具体的には、社会科教育史における重要なアクターとなる教育実践家・白井春男の足蹠について検討した。その結果、白井が教育内容の「現代化」の時期に、いかなる経緯と意図によって、自主編成教材『人間の歴史』を中心とする歴史教育論を構築していたのかということが明らかになった。 続いて、第二に、数学者・遠山啓による能力主義批判、教育評価論を検討した。遠山は、戦後教育史において、民間教育研究運動を牽引した重要なアクターでありながら、これまで彼の所論に関する研究は乏しかった。遠山の所論を広範囲にわたって検討し、彼の主張する「楽しい授業」論が、教育内容の「楽しい」⇔「楽しくない」という、感情の位相のみに注目する議論ではなかったことが明らかとなった。この知見をもとに、基礎学力の保障と戦後日本の能力主義批判に関する議論に、新たな見解を見出す可能性が生まれた。 最後となるが、第三に、教育実践家・鳥山敏子や白井春男、林直哉といった、教育雑誌『ひと』の書き手の教育実践を分析した。そして、彼らの所論や教育実践をマクロな視点で戦後教育史に位置づける「寸描」を一般書籍にまとめることができた。この分野の研究成果は、一般書籍への論考掲載であるから、学術論文とは異なる叙述にはなっている。しかし、①研究成果を社会に還元することが可能となること、②個別の実証研究を踏まえた「通史」、「総論」を描くことが可能となること。この2点は、学術論文とは異なる位相の意義であるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前任校を転出し、2018年4月から日本大学法学部に着任した。このために、予算の配分など、当初の研究計画の通りに研究活動が進んではない部分もあるが、研究成果は順調に積みあがっている。 特に、科研費の採用時の研究計画にあった、①教育実践家・白井春男と(2018年度・既刊)、②数学者・遠山啓に関する研究は(2018年度・採択/2019年度・近刊)、それぞれ、会員数が1,000人以上の全国学会誌に掲載されることとなった。このように、学術研究の成果が学会誌に掲載され、研究者に認知されるまでに至ったことを踏まえ、「おおむね順調に進展している」との自己評価に達した。 また、当初の研究計画とは別に、2018年度には、弘文堂(2018年度、既刊)、七猫社(近刊)、ヴィッセン出版(近刊)から、それぞれ依頼があり、一般書籍を執筆することとなった。刊行そのものは、当初の研究計画にはない依頼であったが、結果として、科研費による研究成果を発表する機会を得ることとなった。以上のことも、上記の自己評価につながる。白井と遠山に関する研究成果を応用し、一般書籍をまとめることが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
現在、いくつかの論考がまとまり、論文投稿、修正再査読、出版社への入稿の作業を行っている。2019年度以降には、これらの研究成果を活字としたい。 いずれも、いまだ発展途上の研究課題であるが、①教育実践家・奥地圭子と鳥山敏子の足蹠に関する研究、②数学者・遠山啓における能力主義批判の研究、③教育雑誌『ひと』目次集成と、戦後教育史研究の分析視角に関する研究、④教育内容の「現代化」以降の仮説実験授業(理科教育)に関する研究。以上のテーマが挙げられる。 とりわけ、2019年度には、①と②の研究成果の報告を目指している。①の研究は、奥地と鳥山の教育実践を分析し、ポスト高度経済成長期における、教育内容の「現代化」の「その後史」を明らかにすることを意図している。従来、ポスト高度経済成長期には、教育運動のアクターが散逸し、それ以前の教育実践と、その後の教育実践の史的連続性が把握しにくかった。本研究により、従来の先行研究の間隙を埋めたい。また、②の研究は、戦後日本の能力主義批判の性格を再検討することを意図している。従来の研究では、戦後日本の能力主義批判は、情緒的な性格を持ち、言説的に構築された「病理」の糾弾に留まるものだったと総括されている。こうした見解に対して、遠山による能力主義批判を検討することで、別の角度からの解釈を算出することが可能となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本務校を転出し、2018年4月より、現在の勤務校(日本大学法学部/総合科目領域)に着任した。そのために、2018年度の前半期は、新任教員としての諸活動により、研究活動が若干、停滞していた。しかし、2018年度の後半から計画を立て直すことが可能となった。それが研究成果の算出につながっている。 ただし、前述の理由から、研究のペースに当初の計画とは異なる「ずれ」が生まれたので、予算の消化が当初の予定とは異なるものとなった。また、現在の勤務校は前任校の研究費とは異なる金額だったので、科研費との合算による、総合的な研究資金の配分に大きな齟齬が生じる。したがって、当初の計画通りに科研費の予算を消化することが困難となった。以上の点を反省し、今年度は、前年度の「ずれ」を年度前半に修正し、まとまりつつある研究成果の公表、活字化に順次つとめたい。
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