研究課題/領域番号 |
18K13089
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研究機関 | 広島商船高等専門学校 |
研究代表者 |
下田 旭美 広島商船高等専門学校, その他部局等, 講師 (80812784)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 高専 / 比較教育 / 技術教育 |
研究実績の概要 |
本研究は、2018年からタイで導入・展開が進みつつある日本の高専教育モデルの受容過程に注目する。高専教育モデルの導入背景のひとつには、諸外国からの日本の教育に対する関心の高さがある。そのニーズに応えるため、2016年8月に、文部科学省を中心に「日本型教育の海外展開促進事業」が始まった。そして、同事業のもと、産業人材育成を担う国立高等専門学校の教育モデル(以下、高専教育モデル)の導入がタイで開始された。 この高専教育モデルの導入、いわゆる教育借用は近代国家の整備が進んだ19世紀後半から急速に広まり、近年では、たとえば国際教育協力分野において開発途上国へ教育システムや教授法などの教育借用が行われている。また、その借用プロセスの中で、現地の既存制度や文化との摩擦や衝突がしばしば生じ、それが課題となっている。 本研究では、タイにおける高専教育モデルの導入・展開事例について、事例研究と上述の教育借用に関する理論枠組みとの往還を通して、教育借用に伴う摩擦や衝突などの実態とともに、それらを最小限に抑える具体的知見を含めて解明する。研究計画2年目にあたる2019年度には、タイでの高専教育モデルの受容過程を把握するため、2018年5月にタイで初めて高専教育モデルが導入されたテクニカルカレッジ2校(チョンブリ・テクニカルカレッジとスラナリ・テクニカルカレッジ)への訪問調査を行った。併せて、本事業を管轄するタイ教育省職業教育局の担当職員への聞き取り調査を実施するとともに関連資料の収集を行った。これらの現地調査から得られた知見をもとに、日本、タイ、そしてタイの隣国であり目下産業人材の育成に注力しているカンボジアの職業教育制度について、各国の共同研究者と比較分析を行い国際学会にて共同発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り、タイでの現地調査を実施し、関係者へのインタビュー調査ならびに関連文献・資料の収集を行い、タイでの高専教育モデルの受容プロセスの実態理解に努めた。また、初年度に引き続き、日本国内高専からの導入に向けた支援の実態を解明するため、高専機構や各高専のホームページから得られる情報等を網羅的に収集し、その活動プロセスの情報の整理を行った。さらに、初年度後半からカセサート大学、カンボジア開発資源研究所(CDRI:Cambodia Development Resource Institute)の共同研究者と高等教育段階の職業教育制度の3か国比較研究に着手し、2019年度8月には、その成果の一部である「タイ、日本、カンボジアの職業教育制度の比較研究(Comparative Research on Vocational Education in Cambodia, Japan and Thailand)」を第10回大会世界教育学会(WERA (World Education Research Association) 2019 Focal Meeting in Tokyo 10 Years Anniversary)にて口頭で発表した。そして、3か国の比較分析により明らかになったタイの職業教育制度の特徴について、タイ現地調査で明らかになった高専教育モデル導入の経緯ならびに導入プロセスの分析結果と合わせて、「タイにおける高専教育モデルの展開 ―パイロット校を訪問して―」『広島商船高等専門学校紀要』第42号としてまとめた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、タイへの高専教育モデル導入3年目となるテクニカルカレッジと高専教育モデル導入を管轄する教育省職業教育局へ訪問し、聞き取り調査や文献・資料の収集をするとともに、インターネット情報などからも広く情報を収集し、その受容過程の実態について解明に努める。 また、2019年度後半から教育借用に関する先行研究の検討に取り組んでおり、教育モデル受容のプロセスの中での摩擦や衝突について理論枠組み、分析項目の設定を引き続き進める。この理論枠組みや分析項目については、2020年7月にスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ大学で開催される第11回世界教育学会(WERA)で発表する予定であった(2020年4月に採択済)。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により1年延期となったため、本年度は発表を待たず、本分析を論考としてまとめるよう努める。 研究計画の最終年度にあたる2020年度には、研究の最終とりまとめに向けて、タイ現地調査結果と教育借用の先行研究から導き出した理論枠組み、分析項目を用いて分析・考察に取り組む。なお、新型コロナウイルスの感染拡大の影響から、タイ現地調査を見合わせる必要が生じた場合は、現地の研究協力者の支援を受けながら、オンラインの聞き取り調査等を行うなど、研究目的の達成が最大限可能となるよう努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
勤務先の異動により職務内容・授業担当科目等が大幅に変わり、それへの適応に手間取り、当初の研究計画の遂行に若干の支障が生じたため、わずかながら基金に残額が生じた。 少額の残額であり、次年度の研究遂行計画に必要な予算として組み込み、適切に使用する予定である。
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