研究課題/領域番号 |
18K13365
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
金子 沙永 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (60763183)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 色知覚 / 初期視覚野 / 脳波 / 明度知覚 |
研究実績の概要 |
本年度は主に前年度までに得られたデータの成果発表を行った。1本目の論文ではアバディーン大学のS. Andersen上級講師との共同研究として実施した定常的視覚誘発電位(SSVEP)を用いたヒト初期視覚野での色情報処理のメカニズムについての研究成果を公表した。本研究では初期視覚野の前の処理段階での反対色表現が初期視覚野にどの程度引き継がれているのかを検証するため、連続的に変化する色相を観察中の実験参加者の脳波を記録した。実験刺激と同期したSSVEP成分の応答振幅は、反対色表現に基づく予測とは大きくずれた色相においてピークを示し、初期視覚野での色表現が反対色表現ではないことが示唆された。さらに様々なモデルの予測と結果の一致度を比較した結果、見た目の鮮やかさをシミュレートした信号が約6割含まれる混合モデルが最適モデルに選ばれた。このことは色の見た目と関連する信号が初期視覚野にすでに存在することを意味する。本研究成果は2020年に新設された国際学術誌Cerebral Cortex Communicationsの第1巻に掲載された。2本目の論文ではラトガース大学のA. Gilchrist教授との共同研究として行なった明度知覚に関する実験結果を発表した。本研究では明度知覚に空間的文脈が影響を与える効果の代表例である三つの錯視に関して、短時間観察と長時間観察で効果が大きく異なることを示した。長時間観察した場合の知覚はGilchrist教授のAnchoring理論の予測と一致した一方、短時間観察では同理論の予測とは一致せず、局所的なコントラストが知覚決定要因として強い影響を持っていることが示された。この結果は三次元的な空間配置や知覚的グルーピングなどの比較的高次の要因が明度知覚に影響与えるまでに時間遅れがあることを示唆している。本研究結果は国際学術誌i-Perception誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画していた複数の視覚属性での同時対比の時間特性を比較する実験は行うことができなかった。一方で当初の予定通り前年度までの研究成果を2本の論文として国際学術誌に掲載することができた。また発表した研究内容を発展させた実験も実施中である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度計画していた複数の視覚属性での同時対比を比較する実験を実施する。また前年度までに得られた色相選択的なマスキング効果に関するSSVEPの実験データの解析を進め、論文化を目指す。同様に錯視に関連した事象関連電位の実験データも論文化する。
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次年度使用額が生じた理由 |
パンデミックが原因で参加予定していた国際・国内学会が中止・オンライン開催となり旅費の使用がなくなった。また同様の理由でキャンパスへの出入りが制限される期間が長く続き、実験実施も困難となったため人件費の使用もなくなった。令和3年度は新たに着任した大学での実験環境を整備するために実験用コンピュータやディスプレイ、実験暗室等の設備を購入する計画である。また感染症対策をした上で実験実施するための被験者謝金、衛生用品購入費用も確保する。
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