研究課題/領域番号 |
18K13488
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
速水 賢 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (20776546)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 遍歴磁性体 / 磁気スキルミオン / カイラル磁性体 / 混成軌道 / 非相反伝導 / スピン軌道相互作用 / 磁気異方性 / 多重Q磁気秩序 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、局在スピンと遍歴電子からなる遍歴磁性体において発現するカイラル磁気秩序相の安定化メカニズムの解明、およびそれらが示す特異な磁気伝導現象や非線形・非相反現象を理論的に開拓し、現実物質探索の幅を大きく拡げることである。本年度においては、スピン軌道相互作用に由来する磁気異方性や磁性イオンとリガンドイオンの混成効果を取り込んだ多自由度電子模型に対して解析計算と数値シミュレーションを行った。具体的には、以下の研究成果を得た。 (1) 異方的な交換相互作用の効果を取り込んだ解析:三角格子上の近藤格子模型に対して、遍歴電子と局在スピン間の交換相互作用の大きさがスピン軌道相互作用によってどのように変調を受けるのかを摂動論を用いて明らかにした。また摂動論により得られた模型をモンテカルロ計算により解析することで、従来の6回回転対称性をもつスキルミオン結晶に加えて、歪んだスキルミオン結晶や新しいカイラル磁気秩序状態を見出した。 (2) d-p軌道間の混成効果が誘起する磁気渦結晶の解析:ここでは遷移金属酸化物におけるカイラル磁気秩序相の発現可能性について調べた。理論模型としては、磁性イオンのd軌道とリガンドイオンのp軌道からなり、かつd軌道間に強いフント結合がはたらく多軌道電子模型を考えた。混成の強さや結晶場準位といった模型パラメタを変化させたときの基底状態相図を求めた。その結果、直交する2つのらせん構造で特徴づけられる磁気渦結晶相が強磁性相とらせん秩序相の間において現れることを明らかにした。 (3) 多重Q磁気秩序が示す非線形ダイナミクス:拡張したボルツマン方程式を用いて、磁気スキルミオン結晶相や磁気バブル相のもとで発現する非線形伝導現象を明らかにした。特に、トポロジカル数である第二チャーン数がこれらの非線形現象の発現に重要な役割を果たしていることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画通り、研究が進展しているのみならず、予期していなかった以下の成果が得られたため。 (1) スピン軌道結合金属Cd2Re2O7において生じる電気トロイダル四極子秩序がもたらす非相反伝導の理論的提案。 (2) 局所的な反転中心の破れが促すスピンカイラリティ自由度を伴う磁気渦欠陥の発見。 (3) 有機導体におけるスピン軌道相互作用に頼らないスピン流生成機構の発見。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、2019年度の研究を引き続き行いつつ、以下の点を推進する予定である。
(1) 現実物質が示すカイラル磁気秩序相の微視的理解:これまでに得られた知見を活かして典型物質の解析を行う。対象物質としては、空間反転中心をもつ系とする。特に近年実験によってスキルミオンが観測された正方晶物質GdRu2Si2や六方晶物質Gd2PdSi3およびGd3Ru4Al12に対する模型計算を行う。また比較のためにスキルミオン相との類似の構造をもつ磁気バブル相を示すCeAuSb2も対象とする。
(2) 有限温度効果を取り込んだスキルミオン結晶の解析:これまでは主に基底状態を対象とした解析を行ってきたが、有限温度の効果がスキルミオン結晶や磁気渦結晶の形成にどのような役割を果たしているかを大規模数値シミュレーションにより調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
得られた成果を研究会等で発表する予定であったが、新型コロナウイルス感染症の拡大により中止となったため。未使用額は来年度行われる国内・国際会議の旅費で充てる。
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