研究課題/領域番号 |
18K13517
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山本 詠士 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 助教 (00779340)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アクアポリン / 分子動力学計算 / 分子透過 / 細胞膜 / 浸透圧 |
研究実績の概要 |
アクアポリン(AQP)は細胞膜に存在し,ほとんどのものが水分子を選択的に透過させる水チャネルであるが,中には水分子以外の低分子を選択的に透過させるAQPが存在する.しかし,これら低分子を透過させる哺乳類のAQPについては実験による結晶構造が得られていないため,AQPの低分子透過メカニズムの分子レベルでの解明は行われていない.本研究では,タンパク質立体構造予測法と分子動力学シミュレーション法を用い,アミノ酸変位によってアニオン・水分子透過性が切り替わるAQP6のアニオン・水分子透過メカニズムの分子レベルでの解明を目指している. 初年度の研究成果を下記に述べる. (1)立体構造予測法を用いて予測したアクアポリンの立体構造を用いて,アクアポリン/脂質膜/水/イオンの系に対して温度圧力一定条件において長時間(1~2マイクロ秒)の分子動力学シミュレーションを行った.野生型AQP6とアミノ酸変位型AQP6(N63G)を用い,それぞれ中性・酸性条件下において計4種類の計算を行った. (2)構造予測モデルの妥当性を検証するために,タンパク質の脂質膜内での構造安定性を解析し,シミュレーション時間内では脂質膜内においてAQPの立体構造が安定していることがわかった.さらに,野生型のAQP3とAQP8についてもシミュレーションを行い,AQPの立体構造モデルの妥当性を検証した. (3)AQPの細孔内を水分子が透過することがわかった.さらに,野生型AQP6に関して酸性条件において細孔内にアニオンが入ることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度計画していた研究項目について研究を実施し,概ね順調に進展している. 立体構造予測したAQP3, AQP6, AQP8を用いた分子動力学シミュレーションでは,脂質膜内でのAQP立体構造が安定して存在していることに加え,水分子が細孔内を透過しているため,他のAQP結晶構造を用いた分子動力学シミュレーションで観測される現象と同様のものが観測されている. さらに,酸性条件において野生型AQP6の細孔内にアニオンが入ることを確認しており,次年度でのイオン濃度勾配下におけるアニオン透過の分子レベルでの観測に可能性を見出している.
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今後の研究の推進方策 |
今後は, (1)平成30年度に引き続きアクアポリンの水・イオン透過性について解析する. (2)イオン濃度勾配下におけるAQP6のアニオン透過性について解析する.通常,分子シミュレーションでは周期境界条件を使用しているため,上下,左右の境界が繋がっている.計算系においてイオンの濃度勾配を生じさせるために,細胞膜を2枚設置し,イオン濃度が2枚の膜で挟まれた中心部分(溶液A)と外側部分(溶液B)で異なる系について分子動力学シミュレーションを行う.濃度勾配を一定に保つために,イオンが溶液AB間をAQPを透過して移動した場合,移動したイオンを確率的に別の溶液の水分子と入れ替え,イオンの濃度勾配を一定に保つ. (3)分子選択性に寄与しているサイトを明らかにするために,イオンがAQP6の細孔内を通過する際の平均力ポテンシャルを傘サンプル法を用いて計算する.
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