本年度は、高次元時空における回転ブラックホールののダイナミクスを高次元近似を用いて明らかにした。特に、高次元では複数の独立な回転軸が存在し、ブラックホールは対応する複数の角運動量を持つ。そのため、線形摂動方程式でさえ、一般には変数分離ができず解析は困難である。申請者は、高次元近似を用いて、一つを除いて全ての角運動量が等しい場合の解析を行った。結果、これまで知られている一軸回転の場合のダイナミクスに、パラメータの変換を通じて帰着することがわかった。また、関連研究として解の変換を用いた5次元ブラックホール厳密解生成にも取り組み、幾つかの新しいブラックホール厳密解を導出した。 本研究課題では(1)高次元近似を用いた対称性の低いブラックホールの研究や(2)高次元極限における高勾配自由度の研究、(3)高次元近似を用いた高次曲率重力理論の研究、の3テーマを柱に研究を行ない、それぞれ成果を達成することができた。(1)に関して、様々に変形するAdSブラックホールや回転ブラックホール、さらに複雑に格子状に変形したブラックブレーン解など、多様な解を導出し、そのダイナミクスを明らかにできた。また、ブロブ近似やエントロピー流を用いたエントロピー生成の可視化など、高次元近似における新たな解析手法を開発した。(2)に関して、ホライズンに非常に薄い箇所が存在する非一様性の強い解について、Einstien方程式の高次元極限がRicci flow方程式に帰着することを発見し、その性質から、高次元ブラックホールの解空間上のトポロジー転移の存在を解析的に明らかにした。このことは、これまで数値計算で存在が示唆されていたのみであった。(3)に関して、最も簡単な曲率2次の補正項を持つEinstein-Gauss-Bonnet理論を調べ、ブラックストリングのダイナミクスの研究や、回転ブラックホールの導出を行なった。
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