研究課題/領域番号 |
18K13594
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川島 朋尚 東京大学, 宇宙線研究所, 特任研究員 (90750464)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ブラックホール / 中性子星 / 降着流 / 相対論的ジェット / 一般相対論的輻射輸送 / ブラックホール・シャドウ / イベント・ホライズン・テレスコープ / 高エネルギー宇宙物理 |
研究実績の概要 |
イベント・ホライズン・テレスコープの主ターゲットであるM87*やSgrA*のブラックホール・スピンを探る上ではブラックホールシャドウに加えて多波長の観測的特徴を調べることが重要と考えられる。これまで自身が開発してきた一般相対論的輻射輸送コードRAIKOU(来光)ではブラックホール近傍で重要な放射機構(シンクロトロン放射・吸収、制動放射・吸収、コンプトン・逆コンプトン散乱)について熱的電子からの放射のみを考慮し、電波からMeVガンマ線までの輻射輸送計算が可能であった。しかし、M87*やSgrA*とその周辺ではTeVガンマ線放射が観測されており、ブラックホール・スピンや降着流・ジェットのダイナミクスとそれに関連した粒子加速過程を探る上でTeVガンマ線まで含めた多波長輻射輸送計算が必要不可欠である。そこで本年度はRAIKOUコードを拡張し、冪分布を伴う非熱的電子によるシンクロトロン放射・吸収とコンプトン・逆コンプトン散乱の効果を追加した。これにより、ブラックホール強重力場における電波からTeVガンマ線にわたる多波長スペクトル計算が可能となった。3次元の一般相対論的磁気流体シミュレーションにより得られる磁気流体場データを用いて輻射輸送計算を実施した結果、熱的電子のみを考慮した計算に比べ、非熱的電子によるシンクロトロン放射で電波イメージ・サイズは大きくなり、ガンマ線は数桁以上明るくなることがわかった。 この改訂版コードの一部の機能を用いて、自身も参加する国際共同研究プロジェクトであるイベント・ホライズン・テレスコープのM87の多波長観測論文の理論解釈を行い、イベント・ホライズン・テレスコープで観測されるリング・イメージの放射位置とガンマ線の放射位置は異なると解釈するのがもっともらしいという結論に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ブラックホールシャドウと電波からTeVガンマ線までの多波長スペクトルを同時に計算する一般相対論的輻射輸送コードの開発・拡張に成功し、今後イベント・ホライズン・テレスコープの主ターゲット天体であるM87*やSgr A*の将来観測への予言や観測データの理論的解釈を行うことが可能になった。また、これまでに取り組んでいたM87*の観測リングイメージについての相対論的ジェット放射起源モデルによる新解釈論文や電波偏光に関する論文が受理・出版され、概ね順調といえる。
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今後の研究の推進方策 |
開発した多波長輻射輸送コードを用いて、M87*やSgrA*の多波長輻射輸送計算を実施し、ブラックホールシャドウとX線・ガンマ線の観測的特徴を理論的に明らかにする。そして観測データとの比較によりブラックホール・スピンを制限する手法構築を行う。このとき、時間変動を考慮した計算を自身が参加するスーパーコンピュータ富岳や国立天文台のアテルイIIを用いて実行し、時間変動と多波長の組み合わせによりブラックホール時空構造やプラズマのダイナミクスに制限を与えられるかを調べる。また、偏光を考慮した多波長コードを完成させ、巨大ブラックホールや恒星質量ブラックホール周囲の降着流・ジェットの理論計算に適用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で出張を行うことが困難であったため次年度使用額が生じた。今年度は世の中の状況を確認しながら必要に応じて出張を行う。
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