研究課題/領域番号 |
18K13848
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
中居 楓子 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80805333)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 津波防災文化 / 津波てんでんこ / 津波避難計画 / 防災 / 非常用持ち出し品 / シグナリング・ゲーム / 要支援者避難 |
研究実績の概要 |
地域の津波避難計画においては,助け合おうとするもの同士が互いを捜索することで避難に時間がかかり,共に犠牲になる「共倒れ」の問題がある.本研究は,この問題を数理モデルで分析し,解決に向けた実践を継続するための条件を明らかにするものである.2年目となる本年度は,1年目から実施している「世帯別備蓄箱」の調査結果に基づき,二つの研究課題を進めた. まず,1年目に引き続いて実施した「世帯別備蓄箱」の調査結果を事例研究としてまとめた.備蓄箱を避難施設へ保管する作業を関係者が共に行うことにより,「相手を迎えに行く」ではなく「『相手も逃げているだろう』と信頼して自分一人でも高台に避難する」という行動様式,すなわち「共倒れ」を防ぎ「津波てんでんこ」を促進しうる可能性について考察した. 次に,ゲーム理論に基づいた備蓄箱の考察と数理的定式化に取り組んだ.今年度は「津波てんでんこ」だけでなく,助け合いによって可能となる「要支援者避難ルール」も同時に検討するためのモデルを検討した.助け合いによる「共倒れ」の背後には,当事者同士に「相手が逃げているかがわからない」という不安がある.しかし,寝たきりの人に対する場合と,日頃から防災活動に参加している元気な人に対する場合では,その不安の度合いは異なるはずである.そこで,防災活動への参加や介護度などを「シグナル」として導入した時,つまり相手の行動に関する不確実性を減らすことができた場合に,人々の行動がどのように変わるのかを分析する「シグナリング・ゲーム」という枠組みを用いた. 本研究はまだ途上ではあるが,ゲーム理論によって人々の行動の相互依存的状況を表現することにより,地域の防災活動が避難行動に及ぼす効果を,「避難への意識」などの個人単位ではなく,「人と人との関係性」の観点から分析できるようになる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は,「シグナリング・ゲーム」という枠組みを用いることで,本研究課題の主要部分である「防災実践の現場」と「理論的モデル」をつなぐ段階に入ることができた.当初の計画では「『津波てんでんこ』をいかに実践可能にするか」に着目していたが,現在は「津波てんでんこ」ができない要支援者のケースも含む問題として拡張した形で進めている.計画とはやや異なるものの,避難における「共倒れ」の解決方法を探るという目的に沿ったものであるため,概ね当初のスケジュールにかなうものと言える. 進展がやや遅れている点として,シグナリング・ゲームにおける利得の設定に関する検討がまだ終わっていないため,シグナルがある場合,ない場合の各々の均衡について,実際の現象を説明できる段階にはなっていないことが挙げられる. 上記のような遅れはあるものの,研究の主要な課題である数理モデルの検討に入ることができたため,「(2)おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
3年目は,地域で行われている「世帯別備蓄箱」のような対策を通じて,「相手が避難できるかどうか」に関する「シグナル」を醸成した場合,つまり相手の行動に関する不確実性を減らすことができた場合に,人々の行動がどのように変わるのかを分析する.2年目に完了させられなかった,シグナリング・ゲームにおける利得の設定に関する検討をおこない,実際の現象を説明できるようなモデルへと改善を進める予定である.
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