研究課題
開口フラーレン誘導体のπ拡張に基づく光物性への影響を検討した.非対称なジケトン部位をもつ誘導体を還元後,超原子価ヨウ素試薬を用いた酸化反応により,ジチエニルナフタレンを部分構造としてもつ対称ジケトン分子を合成した.対称分子の吸収端は210 nm長波長側にシフトすることがわかった.DFT計算の結果,この対称分子は通常のフラーレン誘導体では見られないフラーレン骨格からジチエニルナフタレン部位へのCT遷移が吸収特性に大きく寄与しており,極性溶媒中ではさらに長波長シフトすることがわかった.基底二重項状態をもつNO分子のフラーレン骨格への導入を検討した.開口フラーレン誘導体の粉末に高圧NOガスを接触させることでNO分子を挿入した.続く還元反応によりOH基を導入し,NO分子の放出が効果的に抑制されることがわかった.X線構造解析の結果,NO分子の回転運動は抑制され,長軸が開口部に向いていることがわかった.また,本分子は室温においてシャープな1H NMRシグナルを示す一方で,極低温においてはESR活性となることがわかった.水素結合をもつ水単分子の性質を検討した.開口部の十分大きな開口フラーレン誘導体は,水分子を自発的にその疎水性内部空間に包摂可能である.その開口部に3つのOH基を導入した誘導体を合成した.内包水分子の1Hシグナルは温度降下に伴い低磁場シフトし,緩和時間測定の結果,その回転運動が著しく抑制されることがわかった.X線構造解析の結果,開口部上のOH基付近およびフラーレン骨格中心部において,水分子のディスオーダーが見られ,水素結合の解離と形成に基づくダイナミクスが示唆された.興味深いことに,すべてのOH基をD化した誘導体において,内部のH2OとのH/D交換は全く観測されず,内包水分子がバルク水に比べless basicかつless acidicであることが明らかとなった.
2: おおむね順調に進展している
本研究課題では,開口フラーレン誘導体を用いて弱い相互作用で構成された分子錯体を創製し,これをモデル分子として用いることで,溶液だけでなく結晶中における構造特性を明らかにするとともに弱い相互作用の評価を行なうことを目的としており,①単一分子キャプチャーおよび②電子スピンシステムの構築を目指している.初年度の研究においては,単一水分子をフラーレン骨格に内包させることで,開口部上との水素結合相互作用について評価した.これは,疎水性空間に隔離された初めての水素結合性単一水分子であり,バルク水とは異なる核スピン緩和過程および酸塩基特性が明となった.また,電子スピン化学種の包摂においては,NMR活性かつESR活性という興味深い分子システムの構築に成功しており,本研究課題で目指す3次元π共役系機能開拓の鍵となる成果が得られた.
金属イオンを用いた溶液中での開口フラーレン誘導体の会合挙動を明らかにし,金属イオンの伝導特性を評価する.開口フラーレン誘導体への内包種を中性分子のみにとどめることなく,金属イオンの骨格内部への導入についても検討を進める.さらに,電子スピン化学種に変換可能な前駆体の内包および光または熱駆動の常磁性分子への変換過程についても明らかにする.水分子を内包した開口フラーレン誘導体を合成し,静電ポテンシャル表面の精密制御に基づく単一水分子の動的挙動およびその性質を明らかにし,これまでに詳細が明らかとなっていない弱い分子間相互作用の起源を解明する.
今年度実施予定の研究において,予定を上回る試薬・装置購入費が想定されたため,昨年度の支出を抑えて次年度持ち越しを計画した.
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 3件)
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