開口フラーレン誘導体の開口部以外での反応例はきわめて限られており,アントラセンとのDiels-Alder反応をモデルとし,内包された水素分子を磁気プローブとして用いることにより,その位置選択性について評価した.高磁場領域の1H NMR測定の結果,10種類程度の生成物が生成していることがわかり,NICS計算の結果と比較することにより,容易にそれらの構造を推定することができた.そのうち3種類の異性体の単離・構造決定に成功し,最も高い生成比を示した異性体は,単結晶構造解析の結果,付加したアントラセン部位において,隣接する分子のπ曲面を包摂したホスト-ゲスト構造をもつことがわかった. OH/π相互作用は分子認識や高次集積構造の構築に必要なもっとも重要な相互作用の1つであるが,その結合形成の物理的起源については明らかにされていなかった.そこで,二重結合と水分子の座標が空間的に固定化されたモデル分子を設計・合成し,その特性を水分子のNMR特性ならびに理論計算により評価した.NMR測定の結果,水分子の1Hシグナルは温度降下とともに低磁場シフトし,その縦緩和時間は著しく長くなることがわかった.この緩和過程はスピン-回転機構により説明することができ,OH/π相互作用に起因するエネルギーは約0.3 kcal/molであることが実験的に決定された.さらに,水分子の配向が静電相互作用および軌道間相互作用に大きく影響を与えることがわかった.
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