研究課題/領域番号 |
18K14543
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
城間 吉貴 弘前大学, 保健学研究科, 特任助教 (30781455)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 水中ラドン / 地下水挙動 / 琉球石灰岩 |
研究実績の概要 |
石灰岩を浸透する地下水の挙動は、その不均一な透水性のため既存の数値モデルから推測することが難しい。しかし、このような特異的な地下水挙動の定量的な理解は、持続可能な地下水利用にとって必要不可欠である。地下水中のラドンは、古くから水文トレーサーとして利用されてきた。また、放射線防護学では、地中におけるラドン挙動に関する研究が行われてきた。一方で、これらの異分野的な知見を融合して地下水の挙動を明らかにしようとする研究は行われていなかった。 本研究では、石灰岩地域の特異的な地下水挙動を明らかとするため、土壌・岩石におけるラドンの生成と地下水への供給を考慮した地下水中ラドン濃度推定モデルを構築し、推定値を実測値の比較からその実用性を評価する。この研究は、気候変動に伴う豪雨によって引き起こされる局所的地域災害の予測・減災にとって有益な基礎データを提供できる。 本年度は、広く琉球石灰岩が分布する沖縄本島南部の3地点において地下水および湧水を採取し、その水中ラドン濃度をモニタリングした。サンプリングは1ヶ月に1回の頻度で行った。試料採取地点は、沖縄県南城市に所在する鍾乳洞「玉泉洞」に天井から滴る滴下水、沖縄県南城市の湧水「受水走水」、沖縄県糸満市に所在する米須海岸の3地点であり、それぞれ異なる水系を持つ地下水・湧水である。本年度はこれらの水中ラドン濃度のモニタリング結果のから玉泉洞の滴下水には夏に高く、冬に低い季節変動を持つことが示唆された。これらの要因として地下水の土壌と石灰岩中の地下水浸透時間が影響すると考えられるため、滴下量を求めその変動との相関について解析した。「受水走水」と「米須海岸」から得られた湧水は「玉泉洞」と比較して水中ラドン濃度が低い値を示し、秋に高く、夏に低い季節変動が見られた。このことから琉球石灰岩中の滞留時間の違いがラドン濃度に影響している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、地下水・湧水中ラドン濃度の実測とモデルによる推測値との比較により、地下水中の特異的な地下水挙動を明らかにすることを目的とする。2018年度は、モデル推定値との対比に必要な「地下水中ラドン濃度のモニタリング」を行うこと、モデル推定値算出のための前段階として「土壌・岩石のラドン散逸係数の実測的な評価」に着手すること、「地下水中ラドン濃度推定のためのモデルの構築」に着手することを目標とした。 まず、「ラドン濃度の実測値のモニタリング」では、琉球石灰岩が広く分布する沖縄本島南部の3つの地点を選定し、地下水を採取し水中ラドン濃度の実測を行った。先行研究のある「玉泉洞」の滴下水だけでなく、湧水として広く知られる「受水走水」と「米須海岸」において湧水を採取しラドン濃度を実測した。その結果、季節変動がある可能性が示唆された。さらに地点によってラドン濃度が異なり、地下水の滞留時間によってその差異が生じている可能性が示唆された。これらの成果の一部は日本保健物理学会第51回研究発表会にて発表された。土壌・岩石のラドン散逸係数の実測的な評価では、地下水・湧水採取地点である「玉泉洞」、「受水走水」「米須海岸」の周辺から表層土壌を採取した。また、玉泉洞からは鍾乳石を、「受水走水」と「米須海岸」の周辺からは琉球石灰岩を岩石サンプルとして採取した。これらの試料に含まれるラジウム濃度の分析が完了している。次に、「地下水中ラドン濃度推定のためのモデル構築」については、琉球石灰岩の特異的な地下水挙動を把握するための諸段階としてボックスモデルを構築し、それらに必要となるパラメータの検討を行った。 このように、2018年度はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2019年4月より研究代表者(城間吉貴)が弘前大学から琉球大学に異動となった。これまで地下水中ラドン濃度を測定していた核融合科学研究所の液体シンチレーションカウンターと琉球大学が所有する液体シンチレーションカウンターのラドン濃度の比較試験を2018年度中に行い、統計的に差異がないことを確かめている。よって、今後は琉球大学で水中ラドン濃度を測定する。これにより、これまで1ヶ月に1度の頻度で実施していた水中ラドン濃度モニタリングの頻度を増やし、より詳細なラドン濃度の変化を捉えることが出来ることが期待される。また、これまで3つの地点でラドン濃度測定を行っているが、ラドン濃度のモニタリングに有望な湧水などの情報も得られている。これらの湧水をin situで測定し、モニタリング地点として有望か判断できるようにしたい。ラドン散逸係数の評価ではパッション型ラドンモニタを用いる予定であったが、琉球大学ではパッシブ型ラドンモニタの分析を行うための設備がなく、それらの設備を整備するためには当初予定していたよりも多くの費用が生じる。そのため、一部研究計画を変更を行う。大気中だけでなく水中ラドン濃度も測定可能なアクティブ型ラドンモニタを購入し、水中ラドン濃度のin situ測定と研究室におけるラドン散逸係数の実験的評価に利用する。これにより、これまで点として捉えてきた水中ラドン濃度のモニタリングが面的に実施できるようになり、より汎用的なモデルの構築が期待される。また、パッシブ型ラドンモニタによるラドン散逸係数評価法と従来までのラドン散逸係数評価手法を同時に実施することが可能となり、より精緻なラドン散逸係数の評価が可能となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度の途中で2019年度4月1日から研究代表者が異動することが決定したので、異動先での研究体制を整備する必要性があることが予想されたので、研究費の執行を最小限に留めた。2018年度の研究はおおむね計画どおりに実行できており、2019年度からの研究計画を変更することで、より研究が進展することが期待される。2018年度の主な経費として、地下水中ラドン濃度推定のための数値実験に必要なデスクトップ型パソコンと地下水サンプルの採取と土壌試料採取のための旅費(弘前→沖縄)を計上していた。2018年度に検討した簡易モデルでは、高性能のデスクトップ型パソコンを購入する必要はなかったが、モデルの改良に伴い必要に応じて納入する予定である。さらに、これまで予定していた旅費(弘前→沖縄)をアクティブ型ラドンモニタの導入に充てることでこれまでの研究計画を発展されることが期待できる。2019年度以降の研究計画も異動先における研究環境を鑑み変更する予定である。
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