石灰岩を浸透する地下水の挙動は,その不均一な透水性のため既存の数値モデルから推測することが難しい。地下水中のラドンは,古くから水文トレーサーとして利用されてきた。また,放射線防護学では,地中におけるラドンの挙動について研究が行われていた。一方で,これらの異分野的な治験を融合して地下水の挙動を明らかにしようとする研究は行われていなかった。本研究では,石灰岩地域の特異的な地下水挙動を明らかとするため,土壌・岩石におけるラドンの生成と地下水への供給を考慮した地下水中ラドン濃度推定モデルを構築し,推定値と実測値の比較からその実用性について検討した。 本研究の目的を達成するため,①ラドン散逸係数の実測的な評価,②ラドン濃度推定モデルの構築,③実測との比較によるモデルの検証の3つのテーマを設定した。①では,地下水へのラドン供給能であるラドン散逸係数の実測的な評価を行うため,静電捕集型ラドン・トロンモニタを導入し,蓄積法を用いた散逸係数実測システムを構築し,玉泉洞周辺に分布する土壌のラドン散逸係数を測定した。その結果,土壌のラドン散逸係数はおよそ0.30であり,土壌間隙水中ラドン濃度を推定することが可能となった。②では,地中におけるラドン濃度の時間変動を推定するモデルを構築した。土壌中では,高いラジウム濃度とラドン散逸係数によってラドン濃度が徐々に上昇し平衡に達し,ラジウムをほとんど含まない琉球石灰岩では主にラドンの半減期にしたがって減少することを仮定した。このモデルと①で得られた情報から,降水が土壌に浸透する過程でラドン濃度がどのように変動するか推定することが可能となった。③では,長期的に玉泉洞内の滴下水中ラドン濃度と周辺地域の湧水中ラドン濃度を測定した。得られたラドン濃度と②で推定したラドン濃度の比較から琉球石灰岩中の浸透速度は,およそ3 m/日であると推定された。
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