リグニンは「真菌等による低分子化分解」と「生成した芳香族化合物のバクテリアによる代謝」を経て無機化される。本研究では環境中でのリグニン生分解挙動を明らかにするツールの開発を目指し、リグニン由来芳香族分解菌のSphingobium sp. SYK-6株を宿主とし、本株の転写制御システムを応用することでリグニン由来化合物を検出できるセンサーバクテリアを開発することを目的とした。 これまでに、フェルラ酸代謝遺伝子の転写制御であるFerCリプレッサー、FerCにより制御されるPferB、GFPを用いたセンサーバクテリアを作出した。本センサーは500 nM以上のフェルラ酸に応答した。本年度は、はじめにセンサーのさらなる高感度化を試みた。SYK-6株で高い転写活性を示すようにデザインした-10、-35領域とFerCの結合配列を組み合わせた人工的なFerC制御プロモーターを複数作製した。しかし、これらセンサーの感度および最大蛍光活性はいずれもPferBと同等または劣っていた。次に、SYK-6株のバニリン酸代謝遺伝子の制御を担うDesRリプレッサーとPligMを用い、50 μM以上のバニリン酸に応答できるセンサーを構築した。また、SYK-6株のトランスクリプトーム解析で見いだされたリグニン由来化合物で誘導される遺伝子の推定プロモーター領域を用い、β-1型二量体およびアセトバニロンを検出できるセンサーを作出した。最後にバクテリアセンサーの環境試料への適用性を検討した。水系試料は問題なく適用できたことから固体試料に応答できる仕組みを考案した。フェルラ酸センサーバクテリアと無機塩最少培地を混合した寒天培地を作製し、そこに様々な固体試料を設置した。その結果、いくつかの土壌および腐朽木片において設置物の周囲で蛍光が観察され、本研究で開発したセンサーバクテリアが固体検体にも適用できることが示された。
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