研究課題/領域番号 |
18K14635
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
島田 敦広 岐阜大学, 応用生物科学部, 助教 (80723874)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | プロトンポンプ / X線自由電子レーザー / 膜タンパク質 / 金属タンパク質 |
研究実績の概要 |
チトクロム酸化酵素(CcO)はミトコンドリア内膜に存在する呼吸鎖末端酸化酵素で、酸素を水にまで還元して得られる自由エネルギーを利用して、プロトンをミトコンドリアマトリクスから内膜外へとポンプする。生命活動に利用されるATPの大部分はCcOとCcOへ電子供与するプロトンポンプ複合体とによって形成されたプロトン駆動力を利用して合成されており、本酵素はエネルギー変換の中枢を担うタンパク質である。本酵素の発見以来、その反応機構解明は生命科学における最重要課題であり続けている。CcOによる反応の詳細な理解のために、その反応中間体の原子構造をX線結晶構造解析によって得る試みがなされてきた。しかし、CcOの反応サイクルは非常に早く、酸素を水へと完全還元するのに数マイクロ秒程度しかかからない。従来のX線では高分解能の3次元構造を得るために数秒間X線を照射することが必要なため、短寿命の反応中間体構造を撮影することが非常に困難であった。そこで、本研究課題では、従来のX線よりも10億倍の強度と約1000分の1のパルス幅を持つX線自由電子レーザー(XFEL)を利用することで、これまで不可能であったCcOの非凍結結晶を用いた時分割構造解析を行い、短寿命中間体構造の解明を目指す。今年度は、XFEL照射施設であるSACLAを利用して、CcOへ基質となる酸素が結合した構造を捉えることに挑戦した。まず、先行論文を参照して、光照射によって酸素を放出するケージド酸素化合物の合成および、CcOの結晶調製を行った。ケージド酸素化合物と、SACLAで実験に利用できるCcO結晶の調製に成功したので、実際にXFELを用いて測定を行い、3.5 オングストローム分解能のデータ収集に成功した。ケージド酸素化合物を使った時分割構造解析の報告はほとんどなく、データ収集を行ったことも非常に大きな進歩である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CcOの生理的な反応中間体構造を明らかにするため、生理学的な基質である酸素を使用する必要がある。結晶中の大量のCcO分子全てにタイミングよく同時に酸素を結合させてその還元過程をX線によって捉えるためには、酸素の発生をコントロールできる化合物が必要である。そこで、先行論文(Ludovici C., et al., (2002) Eur. J. Biochem., 269, 2630-2637)で報告されている光照射により酸素を発生させるケージド酸素化合物の合成を行った。合成したケージド酸素化合物の可視光吸収スペクトルから、目的の化合物の合成に成功していることを確認した。次に、CcO結晶の調製を行った。XFELを用いた時分割構造解析では、長辺が100マイクロメートルほどの微結晶を連続してX線照射位置へと送液しながらランダムな配向の回折像を大量に集める。そのため、CcOの微結晶を再現性良く調製する必要がある。これまで、大型のCcO結晶を調製してきた技術を活かして、まずは大型結晶を調製し、これを粉々に粉砕してシードとして利用することで、安定に目的のサイズの微結晶を調製することに成功した。この微結晶から得られた回折像の分解能は3.5 オングストローム程度であった。ケージド酸素化合物を浸透させた状態のCcO微結晶を用い、ケージド酸素化合物から酸素を放出させるための光照射t秒後にXFELを照射することで、酸素結合t秒後のCcO構造を決定することができる。まだ誰も観察したことのない、酸素分子結合状態CcOの構造を捉えるため、まずは光照射何秒後にXFELを照射すれば良いか検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画は若干の修正があるものの順調に推移しているので、このまま計画通りSACLAを利用して時分割構造データの収集、解析を行う予定である。すでにケージド酸素化合物については準備ができている。CcOの詳細な反応機構を議論するには分解能は高ければ高いほど良いので、3.5 オングストロームの分解能を超えるさらに良質な微結晶の調製も引き続き行う。また、CcOの微結晶サンプルをXFELでの測定に供するまで安定に準備するための装置類(低温嫌気チャンバー)もさらに改良を加える予定である。CcOの生理学的な基質である酸素を利用した中間体構造の解明は非常に難易度が高くチャレンジングな研究である。そこで、SACLAを用いた時分割構造解析と並行して、安定な(擬似)中間体構造の決定も行予定である。また、CcOの酸素還元反応には、CcO中の金属原子からの酸素への電子の供給が非常に重要な役割を担っている。そこで、CcO中の金属原子の電荷も同時に調べる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末(3月中)にタンパク質試料を調製するためにウシの心臓を購入するため残額を残していたが、岐阜県内での豚コレラ発生によって食肉センターが休業してしまい、急遽ウシ心臓を購入することができなくなった(食肉センターではウシとブタを同じ施設で解体しているため、ウシには直接関係ない豚コレラの発生の影響で施設が休業するとウシの解体も中止となる)。平成30年度末に行えなかったタンパク質試料の調製は新年度に行うので、当該助成金は当初の予定通りウシの心臓を購入する経費として使用する。
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