研究課題/領域番号 |
18K14742
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
小林 勇喜 広島大学, 総合科学研究科, 助教 (80736421)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 1次繊毛 / メラニン凝集ホルモン受容体1 / 繊毛縮退 / 細胞内シグナル / 培養細胞 / 海馬スライスカルチャー |
研究実績の概要 |
メラニン凝集ホルモン(MCH)は、膜受容体であるMCHR1を介して摂食、情動、睡眠等、様々な生理作用に関与する。これまで生命現象の根幹を担う細胞内シグナルは、MCHR1を含めて細胞膜上に発現した受容体を介して研究が進められてきた。しかし近年、一部の膜受容体が、独立したオルガネラである1次繊毛膜上に局在することが報告された。さらに我々は細胞モデル系において、MCHR1陽性繊毛がMCH刺激により短くなる現象も見出している。1次繊毛は、繊毛膜に発現する受容体を介して微小環境を検知するセルセンサーとして働き、その攪乱は肥満など様々な疾患と結びつく。そこで申請者は、「1次繊毛という特異なオルガネラに局在する受容体の特徴的なシグナリング系」を明らかにする事を目的とした。 ●MCHを介した1次繊毛選択的な新規細胞内シグナルの同定(モデル細胞系):これまでにヒト網膜由来細胞(hRPE1)におけるMCHR1の細胞内シグナルの解析から、縮退開始はGi/o依存的であり、主にAkt系が関わることを見出した。加えて、繊毛縮退にはタンパク質合成が必須なことも判明した。そこで仲介分子の探索を目的に、RNAseqおよび定量PCR法による詳細な解析を行い、2つの分子に絞り込む事に成功した。これら2つの分子を標的として、siRNAによるKD細胞と改良型CRISPR/Cas9 (CRIS-ObLiGaRe)を用いたKO細胞を作出したところ、予想通りMCHによる縮退現象が抑制された。 ●MCHを介した生体内における1次繊毛縮退と環境要因の関連性(中枢神経培養、個体):モデル細胞系で見出した本現象が、生体内でも同様に生じ得るのかを解明することは重要な課題である。そこでMCHR1が高発現する海馬スライス培養系を確立し、MCHによる刺激を行ったところ、濃度および時間依存的に内在性のMCHR1陽性1次繊毛の縮退が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題は、一般的な細胞膜における受容体シグナル解析ではなく、生体内においてMCHR1が局在する1次繊毛膜に焦点を当てたものである。これまで我々は、1次繊毛を有する数少ない培養細胞モデル系(hRPE1細胞)を用いて、MCHを介した繊毛縮退機構の全容解明を目指してきた。その結果、縮退のスタート(Gi/o)とゴール(アクチン重合)にあたる概要を明らかにしたが、仲介する分子は不明であった。RNAseqおよび定量PCRを用いた本研究により、2つの仲介分子候補を見出した。加えて、当該分子に対するLoss-of-function(SiRNA、CRISPR/Cas9)を行い、これら候補分子が求めていた仲介分子である可能性を強く支持する結果を得た。さらに、MCHを介した繊毛縮退現象が生体内おいても同様に生じるのかは重要な課題である。MCHR1が高発現する海馬に着目し、マウス海馬スライスカルチャー系によりMCHの効果を調べたところ、MCH濃度および時間依存的に縮退が生じること、MCHに対する感受性が培養細胞よりも鋭敏である事を明らかにした。以上より、vitroでは予定よりも進んでおり、vivoにおいてもマウスの絶食実験等を行う準備が整った。
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今後の研究の推進方策 |
●MCHを介した1次繊毛選択的な新規細胞内シグナルの同定(モデル細胞系):MCHを介した繊毛縮退機構の最後のピースとなる2つの分子を見出した。これら分子に関するGain-of-functionと既実施のLoss-of-functionに対するレスキュー実験を行う。その後、MCHR1と同じくGタンパク質共役型受容体であり、繊毛縮退を生じさせるソマトスタチン受容体3や逆に繊毛伸長が生じる塩化リチウム等の繊毛調節機構に対し、本研究で見出した2つの分子が関与するかを調べる。以上により、見出した2分子が普遍的な繊毛長調節に関与するのか、MCHを介した特異的な縮退機構に関与するのかが明らかになる。 ●MCHを介した生体内における1次繊毛縮退と環境要因の関連性(中枢神経培養、個体):ラット海馬スライスカルチャーを用いたMCH添加実験により、MCH濃度および時間依存的に縮退が生じることが明らかになった。今後は、培養細胞系で見出した縮退シグナル(Gi/o、Akt等)に対する阻害剤実験を行う。また、MCHR1陽性1次繊毛は線条体においても豊富に存在する事を見出した。今後は、線条体においてもMCHの効果を調べる予定である。以上より、生体により近い器官培養系においてもMCHを起点とした繊毛縮退が生じることを明らかにした。これにより、MCHの生理機能と繊毛縮退を解析する意義とその重要性が確固たるものとなった。そこで、絶食・高脂肪食給餌によりエネルギー状態が変動したマウスの脳を用いて、MCHの生理機能を考慮した環境要因が繊毛長に及ぼす影響を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)当初予定よりも1年目の計画がスムースに進んだため。 (使用計画)2年目の当初計画に加えて、1年目に新規に見出した器官培養系(線条体)を含めてMCHによる縮退効果を調べる。その際に必要となる培養特殊膜、抗体購入に充てる。
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