メラニン凝集ホルモン(MCH)は、膜受容体であるMCHR1を介して摂食、情動、睡眠等、様々な生理作用に関与する。これまで生命現象の根幹を担う細胞内シグナルは、MCHR1を含めて細胞膜上に発現した受容体を介して研究が進められてきた。しかし近年、一部の膜受容体が、独立したオルガネラである1次繊毛膜上に局在することが報告された。さらに我々は細胞モデル系において、MCHR1陽性繊毛がMCH刺激により短くなる現象も見出している。1次繊毛は、繊毛膜に発現する受容体を介して微小環境を検知するセルセンサーとして働き、その攪乱は肥満など様々な疾患と結びつく。そこで申請者は、「1次繊毛という特異なオルガネラに局在する受容体の特徴的なシグナリング系」を明らかにする事を目的とした。 ●MCHを介した生体内における1次繊毛縮退と環境要因の関連性(中枢神経培養、個体):昨年度確立した海馬スライス培養と免疫組織化学染色法を改良し、海馬CA1、CA3、DG領域において繊毛局在型MCHR1を明瞭に検出することに成功した。この系にMCHを添加したところ、CA1選択的に繊毛長縮退が起こった。これは、MCHR1を介する反応性(繊毛長の調節機構)が海馬の脳領域によって異なることを意味する。また、CA1におけるMCHR1を介した縮退には、vitroで見出したGi/oおよびAktリン酸化を介することも明らかにした。さらに、ヒトiPSC由来グルタミン酸神経細胞において、その培養日数毎に、一次繊毛の割合・長さともに増加することを見出した。加えて、MCHR1陽性一次繊毛を介したMCHによる繊毛縮退を観察することができた。以上から、「MCH-MCHR1-繊毛縮退」は普遍的な現象だと考えられる。
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