肝がんは再発率が高く、根治後も高頻度で再発するため、生存率が低く予後が極めて悪い疾患である。また現在の肝がん医療においても満足のいく診断・治療成績が達成できていないのが現状である。こうした疾患対策上の課題に対して、有用な早期診断・治療法の創出が目標となるが、これらの社会ニーズを実現するためには、肝がんの分子機構の解明が緊要であるといえる。細胞外液中には、本来分泌に必須とされてきたシグナルペプチドをコードしないタンパク質が数多く存在している。近年これらシグナルペプチドを持たないタンパク質の一部が自発的に分泌されることが報告され、「型破り分泌」と総称されて新しい分泌様式の一つとして現在注目され始めている。申請者はこれまで、Importin α1やProtein Kinase Cdelta (PKCδ)などの核移行タンパク質ががん細胞において型破り分泌することを先駆的に見出し、その機能解析を進めてきた。本研究ではこれまでにPKCδに着目し、肝がんに特徴的に細胞外分泌が起きることを突き止めた。PKCδの細胞外分泌はPKC活性化剤であるPMA処理することにより抑制された。このことからPKCδの細胞外分泌は不活性型で起きていることが示唆された。また細胞外のPKCδがグリピカン3の細胞外領域と直接結合し、増殖シグナルを活性化させ、腫瘍形成能を亢進させることを突き止めた。加えて、PKCδのマウスモノクローナル抗体が抗腫瘍効果を有することも細胞・組織レベルで示すことに成功した。本研究を通して、PKCδが肝がんの抗体療法の標的になることが示唆された。
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