研究課題/領域番号 |
18K15673
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
松村 美咲 島根大学, 医学部, 医科医員 (30811244)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ミトコンドリア病 / 間葉系幹細胞 |
研究実績の概要 |
ミトコンドリア病は、核DNA上の遺伝子変異あるいはミトコンドリアDNAの異常により、エネルギー産生だけでなく活性酸素の発生、アポトーシス、カルシウムイオンの貯蔵、感染の防御などのさまざまなミトコンドリア機能が障害されることで発症する。臨床症状は非常に多岐にわたり、頭痛や糖尿病、難聴などの単一の臓器症状から、脳卒中様症状、心筋症、腎不全などの多臓器の症状を合併するものまである。治療に関して、有効な治療法が確立しておらず、重症例は致死的な経過をとる。 間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell, MSC)は、骨髄や脂肪、臍帯などに存在する細胞で、骨・軟骨・脂肪の再生だけでなく、抗炎症作用および組織修復作用を有している。MSCは通常の培養方法で増殖しやすいこと、また、多くの機能を有していることから、MSCを用いた臨床応用が数多くの疾患を対象に進んでおり、造血幹細胞移植後の治療抵抗性GVHDに対する治療薬は保険収載されている。その効果は疾患によって様々であるが、安全性は担保されている。 MSCが脳梗塞や急性肺疾患などの障害された部位に遊走して、局所の炎症を抑えるだけでなくMSC内のミトコンドリアが障害された細胞に移入して細胞機能を回復させることが報告されている。その機序として、MSCがミトコンドリアを含む細胞外小胞を分泌して、障害された細胞がその小胞を取り込むこと、MSCがnanotubeを障害された細胞に伸ばし、その中を通ってミトコンドリアが移動することが考えられている。その結果、エネルギー産生能の回復だけでなく、アポトーシスの低下、活性酸素の減少などの多くのミトコンドリア機能が改善することが明らかとなっている。 したがって、「ミトコンドリア機能全体を回復する治療開発」という命題を、MSCからのミトコンドリア移入は有効かつ安全な治療法となりうるかを検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミトコンドリアをラベルした高純度間葉系幹細胞をミトコンドリア病患者由来細胞と共培養して、ミトコンドリアが移入することを証明できた。 次に、正常なミトコンドリアが移入したミトコンドリア病患者由来細胞の機能が改善することを明らかにするために、機能解析を行なった。生存率、アポトーシスに、活性酸素、β酸化能、ATP産生能、呼吸鎖機能、ミトコンドリア膜電位を見るために、それぞれの実験系を確立することができた。 さらに、ミトコンドリア病患者由来iPS細胞から神経や心筋に分化させることに成功して、高純度間葉系幹細胞由来のミトコンドリアの移入を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
1. 高純度ミトコンドリア病の細胞の機能解析を行う。 2. ミトコンドリアが移入する機序として、細胞間接着、微小管、細胞外小胞が考えられる。細胞間接着の必要性を明らかにするためにトランスウェルアッセイ(ボイデンチャンバー)を行う。微小管の形成は免疫蛍光染色(チュブリンなど)で評価し、Mito-redラベルしたミトコンドリアが微小管内を移動することを証明する。また、微小管形成を阻害する薬剤(コルヒチンなど)を用いて微小管がミトコンドリアの移入に必要かを明らかにする。細胞外小胞に関して、高純度間葉系幹細胞が通過しないが細胞外小胞は通過するボイデンチャンバーを用いてミトコンドリアが移入することを証明する。また、CD38shRNAなどを用いて細胞外小胞の分泌を阻害させることによって、細胞外小胞がミトコンドリアの移入に重要な役割を果たしているかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
1. 予定した消耗品の費用負担が少なくて済んだこと 2. 実験補助を行う人件費がかからなかったこと
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