研究課題/領域番号 |
18K16085
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
入口 翔一 京都大学, iPS細胞研究所, 特定研究員 (50737442)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | iPS細胞 / T細胞 / T細胞免疫療法 / 他家移植 |
研究実績の概要 |
近年、血液腫瘍に対する遺伝子改変T細胞療法の特筆すべき抗腫瘍効果が明らかになりつつある。しかしながら、現行の自家移植での遺伝子改変T細胞療法は費用が高額になるという課題が存在する。本課題への解決策として、他家移植による治療戦略が検討され始めている。その中でも、ES/iPS細胞などの多能性幹細胞由来T細胞は遺伝子改変を前提としたT細胞療法において、安全性の確保やロット構築の面からその他の候補ソースによりも優れていると考えられる。私の所属する研究室ではこれまでに体内から単離した抗原特異的T細胞からiPS細胞を樹立し、再びT細胞へと分化誘導する技術とその抗腫瘍効果について報告してきた。一方で、本技術を臨床応用する上で、少なくとも製造方法と機能面上の技術的課題が存在する。 上述の背景と課題より、本課題では産業応用に適した培養系にて多能性幹細胞からより生体に近いT細胞への分化誘導方法を確立する目的で、次の3項目について研究を進めている。1)無フィーダー・無血清の合成培地を用いた多能性幹細胞由来T細胞分化誘導培養系の開発。2)多能性幹細胞由来造血前駆細胞(iHPCs)画分におけるT細胞前駆細胞の同定と分化能・機能評価。3)iHPCsからT細胞への分化過程におけるシグナル伝達解析。本年度は1の無フィーダー・無血清培地によるT細胞分化誘導系の構築と前駆細胞の多分化能を評価する為のin vitroの培養条件、並びに3にて実施する定量的PCRによるT細胞分化関連遺伝子検出系の構築に成功した。また、iHPCの網羅的表面マーカー発現解析を実施した。これまでに我々は無フィーダー系にて多能性幹細胞からのT細胞分化誘導系を確立してきたが(投稿準備中)、産業応用を見据えた際には無血清培地でのT細胞分化誘導系の確立が課題であった。本成果により、より安定的にT細胞の製造が可能になることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はこれまでに私の所属研究室で達成した、フィーダー細胞を用いないiPS細胞からT細胞分化誘導する技術を更に発展させるためにウシ血清を含まない培地での分化誘導条件を確立することと、誘導した細胞の遺伝子発現や表面マーカーを含めた特性解析が主な目標であった。検討の結果、iPS細胞由来造血前駆細胞に最適な基礎培地と血清代替品の組み合わせを同定した。一方でT細胞分化中の増殖倍率についてはウシ血清を使用した場合と比較して約半分になることも明らかとなった。誘導した細胞の特性解析は滞りなく実施ができた。以上より、本年度については研究計画通り進捗しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は計画どおり研究が進捗したため、引き続き分化細胞の機能と特性評価を実施しながら培養系の最適化を進める。本年度の研究よりT細胞分化過程での細胞増殖率については改善の余地があることが明らかになったため、化合物や組み換えタンパクのスクリーニング実験も実施する予定である。分化誘導で使用する材料についてはより臨床応用を踏まえたものへの代替も検討する。また、本年度は分化過程での中間細胞の評価を重視したが、今後は最終産物であるT細胞の機能評価を重点的に進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は無血清培地の開発に多くの費用がかかると想定していたが、当初よりも少ない候補で目標を達成することができた。一方で新規培養条件ではウシ血清を使用した場合よりもT細胞分化過程での増殖倍率はやや劣る。本年度の余剰分については、増殖効率を向上させるための低分子化合物や組み換えタンパクの購入費に当てる計画である。
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