近年、血液腫瘍に対する遺伝子改変T細胞療法の特筆すべき抗腫瘍効果が明らかになりつつある。しかしながら、現行の自家移植での遺伝子改変T細胞療法にはいくつかの課題が存在する。その解決策として、他家移植による治療戦略が検討され始めている。その中でも、ES/iPS細胞などの多能性幹細胞由来T細胞は遺伝子改変を前提としたT細胞療法において、安全性の確保やロット構築の面から有望な候補ソースになると考えられる。私の所属する研究室ではこれまでに体内から単離した抗原特異的T細胞からiPS細胞を樹立し、再びT細胞へと分化誘導する技術とその抗腫瘍効果について報告してきた。一方で、本技術を臨床応用する上で、少なくとも製造方法と機能面上の技術的課題が存在する。 上述の背景と課題より、本課題では産業応用に適した培養系にて多能性幹細胞からより生体に近いT細胞への分化誘導方法を確立する目的で、次の3項目について研究を進めた。1)無フィーダー・無血清の合成培地を用いた多能性幹細胞由来T細胞分化誘導培養系の開発。2)多能性幹細胞由来造血前駆細胞(iHPCs)画分におけるT細胞前駆細胞の同定と分化能・機能評価。3)iHPCsからT細胞への分化過程におけるシグナル伝達解析。本年度は前年度に確立した無フィーダー細胞かつ無血清培地でのT細胞前駆細胞の同定と機能解析を実施した。その結果、iHPCよりもよりT前駆細胞誘導に優れた細胞画分を発見した。また、誘導したT前駆細胞をNOTCHシグナル存在下で培養を続ける事で、さらに分化が進んだCD4とCD8とT細胞受容体を発現する細胞(DP細胞)の誘導に成功した。本手法で誘導されたT細胞は、生体のT細胞を増殖培養する条件下においても増殖する事が示された。
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