大腸癌による死亡率は本邦トップ3に位置し、再発進行大腸癌の治療は困難である。治療抵抗性や再発の原因として癌幹細胞の概念が注目されているが、大腸癌の多様性から考えれば、癌幹細胞の性質も普遍的ではなく個別に異なる可能性が高い。そこで私達は個々の患者さんの臨床検体から癌幹細胞を同定することにした。 臨床検体を用いたspheroid培養は、本年度さらに5例追加し、合計13例において安定して継代・ストックが可能となった。そのうち8例において、long retaining markerでマーキングされた幹細胞性の高い細胞 (=スーパー癌幹細胞)とマーキングが消えた分裂回数の多い分化した細胞 (=非癌幹細胞)のRNA sequenceを行った。その結果、複数の症例においてマーキングされた細胞において既知の幹細胞マーカーの発現が亢進していることを確認でき、さらに、発現亢進している幹細胞マーカーは症例により異なることが分かった。また、マーキングされた癌幹細胞が実際に高いsphere形成能を有することも確認することができた。 本研究の目的は、手術によって切除された大腸癌組織の中から、少数の細胞で腫瘍を形成する能力を有するスーパー癌幹細胞を同定し、その性質を解明することである。上記sequenceの結果から、この実験系において幹細胞性の高い細胞を同定できていることが示され、さらにその発現亢進している幹細胞マーカーのパターンは症例により異なることが分かった。今後は各症例の正常粘膜上皮・原発巣・マーキング前のspheroidのsequence結果も加えてスーパー癌幹細胞独特な遺伝子発現プロファイルを深く解析することで、患者個々の癌幹細胞マーカーの同定につながることが期待される。
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