本研究は、他癌において上皮間葉移行(EMT)および癌の進展に強く関与が報告されている転写因子Forkhead boxファミリーのうちForkhead box M1(FOXM1)について、膵癌におけるEMTへの影響を、細胞間接着装置の一つであるタイト結合の構成分子claudin-1の変化を指標に解析することを目指したものである。また細胞内糖代謝に注目してFOXM1の役割や制御についても解析した。 今年度は前年度に引き続き膵癌細胞株(HPAC/PANC-1)およびhTERT導入ヒト正常膵管上皮細胞(HPDE)を用いた膵癌におけるFOXM1の代謝メカニズムに関する実験を継続し、昨年度までに得られた実験結果のblush upを行い、再現性を確認した。 実験結果の要旨は、①FOXM1はEMT誘導因子であるsnailを介してclaudin-1の発現を抑制した。②培養液中のグルコース濃度を低下させることでFOXM1の発現は抑制された。同時にsnailの発現も抑制され、claudin-1は高発現した。③siRNA-FOXM1を用いてFOXM1の発現を抑制するとsnailの発現は抑制されて、claudin-1は高発現した。③通常FOXM1の発現を認めないHPDEにFOXM1を強制発現させるとsnailは高発現してclaudin-1は発現抑制された。④siRNA-FOXM1や低グルコース濃度培養によりFOXM1の発現を抑制すると、細胞遊走能は低下した。⑤FOXM1の抑制により細胞内ミトコンドリア代謝(好気呼吸)は亢進して相対的に嫌気呼吸は抑制され、FOXM1とWarburg効果との関連が示唆された。以上の結果により、FOXM1の抑制によりタイト結合を維持することでEMTを制御することは、膵癌の転移や浸潤を抑制することにつながる可能性が示唆され、新たな膵癌治療法開発の一助になりえると考えられた。
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