研究課題/領域番号 |
18K16450
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
大山 拓朗 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 助教 (30792949)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 吸入麻酔薬 / ポストコンディショニング / サーチュイン |
研究実績の概要 |
2003年、長時間の虚血の直後に短時間の虚血再灌流操作をくり返すことによって、心筋梗塞サイズが減少するという報告がなされた。短期虚血によるポストコンディショニング(IPostC)と呼ばれるこの現象は、虚血によって障害される心筋を保護するという観点から、臨床的に有用性の極めて高い発見であった。そのメカニズムを明らかにすることは、心筋梗塞患者の救命につながるため、その後長年にわたりIPostC作用における分子経路の解明がなされてきたが、その全容は未だ明らかではない。 Sirt遺伝子の活性化により合成されるSirtはカロリー制限や飢餓によって発現することが知られており抗老化作用を有することで注目を浴びている。Sirt遺伝子は抗老化作用だけでなく、代謝、細胞保護、悪性腫瘍などに関与しており生理学的、病態生理学的に重要であることが明らかになってきた。Sirtはミトコンドリアに多く分布し、心機能の制御や虚血に対する心筋耐性をコントロールする作用についても報告されているが、APostCによる心筋保護作用とSirtとの関与を示した報告はなく、APostCの心保護作用がSirtにより誘導されるかどうかは知られていない。そこで、本年度は以下の研究を行った。 マウスの心臓冠動脈を30分間閉塞し、2時間の再潅流を行う。その後、再び冠動脈を閉塞、Evans Blueを注入し心臓を取り出す。心臓をスライスし、TTCにて再染色を行い心筋梗塞サイズを測定した。APostC刺激によって心筋梗塞サイズが減少した。また、Sirtの阻害剤であるnicotinamideを前投与し、同様の虚血再潅流実験を行なった結果、心筋保護作用が棄却されたことから、SirtがAPostC作用に重要な役割を演じていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載した研究目的に対し、平成30年度の進捗度合いは同じであり、おおむね順調と思われる。 つまり、マウスを人工呼吸下に心臓冠動脈を30分間閉塞し、2時間の再潅流を行った虚血再潅流実験は順調に進行していることに加え、心臓を取り出しホモジナイズしたものに対するRT-PCR、イムノブロットを用いた実験においても、RNA及びタンパクレベルにおいてSirtの発現が増加していることを明らかにすることができた。 このことから、計画通り進むと研究期間内に、SirtのAPostCに及ぼす影響が明らかにできると思われる。また、虚血再灌流障害に対する心筋保護作用経路におけるSirtの果たす役割、ミトコンドリアmPTPの開口抑制に与える影響が解明される可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
申請者はこれまでにイソフルランによる心保護作用においてミトコンドリアのmPTPの開口抑制が関与することを報告している。Sirtがミトコンドリアを中心に発現していることから、Sirtの心保護作用とmPTP開口との関与を明らかにする。 実験をおこなった各群の心臓を取りだし、ホモジナイズし、密度勾配遠心法にてミトコンドリア分画を得た後、ミトコンドリア膨化アッセイにより吸光度の変化によってCa2+依存性ミトコンドリア膨化がAPostC刺激によるSirtを介した心筋保護効果にどのように影響するかを調べる。さらにこの影響を可視化するため、calsein-AM試薬を用いて細胞を蛍光ラベルし、mPTP開閉を観察する。 これらによって本研究期間内に、SirtのAPostCに及ぼす影響が明らかとなる。また、虚血再灌流障害に対する心筋保護作用経路におけるSirtの果たす役割、ミトコンドリアmPTPの開口抑制に与える影響が解明される。
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