研究課題
我々はラット中大脳動脈一過性閉塞による脳梗塞モデルを用いて、梗塞中心部で骨髄由来マクロファージ様細胞が増殖・集積し、特にNG2プロテオグリカン(NG2)を発現する一群の細胞は虚血による組織障害の増悪を防ぐことを示してきた。しかし、脳梗塞などの重症脳障害では、血流中から傷害脳組織に浸潤するマクロファージのほかに、脳常在性活性型のマイクログリアと、さらに傷害巣から離れて存在する静止型マイクログリアが貪食細胞あるいは抗原提示細胞として存在しているが、それぞれの役割については未だ未解明な点が少なくない。さらに、重症脳障害では全身性の反応を伴うと考えられるが、非傷害半球のマイクログリアの反応についてもよく分かっていない。本研究では、一過性(90分)中大脳動脈閉塞によるラット脳梗塞モデルの発症後72時間で、フローサイトメトリーによる細胞分取を行い、これらの細胞のmRNA発現を検討し、それらの性質や役割の違いを明らかにした。CD68の発現がより高いことから、貪食能そのものはマクロファージの方が高い。また、マクロファージのMerTK、Protein S, 補体の発現は、マイクログリアより低く、マクロファージによる神経細胞貪食時のEat-me signal分子は、他の細胞から、あるいは血流中からの供給が考えられる。MerTK及びC1qのタンパク質量が虚血コアで少ないのは、貪食時にマクロファージが消化している可能性が考えられた。Eat-me signal分子のmRNA発現は、正常脳及び正常脳由来分離マイクログリアで高く、静止型マイクログリアはこれらの分子の発現により、シナプス貪食など生理的機能に関わっていると考えられる。活性化型マイクログリアは、マクロファージよりEat-me signal発現が多い傾向があり、Eat-me signal供給源としての役割があるかもしれない。
2: おおむね順調に進展している
上記概要の内容をもとに論文作成中である。
これまでの研究結果から、脳梗塞辺縁部において、マクロファージとNG2+活性化マイクログリアが神経細胞の貪食に関わっていた。脳梗塞辺縁部で、アポトーシス神経細胞の認識、貪食には、MFG-E8/VNR、Gas6-ProteinS/MerTK、補体/CD11bのいずれの関与も考えられる。これらの系を抑制すれば、神経細胞死を抑制できる可能性があり、さらに研究を進めていく。
今後行う実験において、MCAOモデルに使用する実験動物、フローサイトメトリーに使用する各種試薬、抗体が必要である。また、実験結果を報告するための英文校正費、学会参加費が必要である。
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Glia
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Biochem Biophys Res Commun
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