本研究では、(1)ヒト細胞においてDNA二重鎖切断後に、生じるR-loop構造の調節メカニズム、(2)R-loop構造の形成メカニズム、(3)R-loop構造を認識し、適切に処理するための分子メカニズム、(4)転写複合体およびR-loop構造がゲノム安定性に与える影響、について着目して研究を実施した。2光子共焦点レーザー顕微鏡を用いて、特にS/G2期におけるDNA二重鎖切断修復とR-loop構造の関係について検討した。その結果、ヒト細胞においてDNA二重鎖切断発生後のごく初期の時間帯において、DNA二重鎖切断の近傍でR-loop構造の形成が見られること、さらにこれらのR-loop構造はRad52とXPGによって認識・解消されることが判明した。さらに、R-loop構造の形成・解消を起点として、相同組換え修復(転写共役型相同組換え修復、Transcription Associated Homologous Recombination Repair; TA-HRR)が開始され、転写活性化領域におけるDNA二重鎖切断は正確に修復されることが明らかとなった。転写共役型相同組換え修復を阻害すると、ゲノム異常の発生が顕著に増加したことから、これらの機構がゲノム安定性の維持に大きく寄与することが示された。これらの結果から、R-loop構造とDNA二重鎖切断応答の協同によるゲノム安定性維持機構について新たな分子モデルを提唱する論文を出版した。また、これらの研究結果を日本国内の学会および米国で開かれた学会において発表し、今後の課題についてフィードバックを得た。
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