研究課題/領域番号 |
18K18307
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
大坂 泰斗 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 研究員 (70782887)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | ダイナミクス / XFEL / ナノ集光 / XSVS / 分割遅延光学系 |
研究実績の概要 |
本申請課題では,硬X線分割遅延光学系とナノ集光システムとを組み合わせたX線スペックル可視度分光(X-ray speckle visibility spectroscopy, XSVS)法により,ピコ秒からナノ秒領域のメゾスケールの"揺らぎ"の測定手法の確立を目的としている.本目的達成に向け,昨年度では反射型セルフシード法によるXFELの高輝度化や分割遅延光学系の実装ならびに評価,そしてターゲットの一つである純水からの散乱強度の評価を実施した.今年度では,(1) XFELのさらなる高輝度化に向けた高分解能モノクロメータの開発,(2) 時間分解能を決めるXFELパルス幅の評価,(3) 純水に対して原子スケールの揺らぎ測定の実現可能性評価を行った. (1)に関して,プラズマ表面加工を施すことで結晶性を改善させたSi(220)結晶のモノクロメータを開発し,XFELのバンド幅を平均で0.6 eV,シングルショットレベルでは0.3 eV程度にまで狭帯域化することに成功した.これにより,分割遅延光学系を通した後のフラックスを5倍以上向上することが出来た(論文投稿済). (2)に関して,可視光域で一般に利用されている強度自己相関法を世界で初めて硬X線パルスに対して実証した.18 keVに吸収端を持つジルコニウムに対して,9 keVのXFELによる直接二光子吸収を測定することで,分割遅延光学系通過後のXFELのパルス幅が7.4 fsであることを示した(近日論文投稿予定).この時間幅が提案する揺らぎ測定法の時間分解能となる. そして(3)に関して,純水のO-O間距離に相当する第一回折ピークにおいて,XSVS測定を実施した.測定結果は非弾性X線散乱法により評価した揺らぎの時間スケールとよく一致しており,本手法の有効性を実証した(論文投稿済).
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請課題では,以下に示す3つの小目標を掲げている.(1) 試料位置におけるショットごとの空間重複度診断手法の確立と,静的試料に対するスペックル可視度変化の評価,(2) 標準試料を利用したXSVS法の実現可能性の検証,(3) 純水に対してXSVS法を広い空間スケールに対して実施し,謎の多い水の特異な物性の起源の解明.(1)の前半部に関しては,昨年度すでに実施済みである.また,(2)に対して,申請当初は液中に分散させたナノ粒子を試料として利用することを検討していたが,昨今の非弾性X線散乱法の発展により,最終的なターゲットである純水の揺らぎの一部が解明されてきた.そのため,純水中のO-Oボンドの揺らぎを標準試料として,(2)と(3)の一部を今年度測定し,良好な結果が得られている.ただし,測定したO-Oボンドは最も散乱強度の高い領域である.より散乱強度の弱い空間スケールの揺らぎの測定には至っておらず,今後の課題として残っている.
|
今後の研究の推進方策 |
未だ実現していない散乱強度の弱い空間スケールの揺らぎ測定には,(1) 試料位置でのX線フラックスの向上,(2) 統計数の増大というアプローチが考えられる.(1)に対しては,光源のさらなる高輝度化は電子ビームの時間-エネルギー構造の精密な調整を必要とするため,光学素子開発やX線の利用手法開発を核とする本申請課題の範疇を超える.そこで,より安易なアプローチとして,現在大気中で稼働させている分割遅延光学系を吸収の小さなHe雰囲気化で稼働させることを検討している.これにより試料位置でのフラックスは約2~3倍にまで向上すると期待される. (2)に対しては,すでにかなりの統計数(各測定点数十万ショット以上)を取得しており,これ以上の増大は現実的ではない.これだけのショット数でも不足する根本原因として,分割パルスを利用したXSVS法で得られるスペックル可視度変化が極めて小さいことが挙げられる.昨年度報告の通り,XFELを空間的に分割する波面分割素子を利用した際,時間差ゼロでのスペックル可視度は大きくても0.2~0.3程度となる.また,最小スペックル可視度は原理的に最大可視度の半分までしか低下しない.また,分割パルス間の強度比の揺らぎにより利用できるショット数が制限されることも,より多くのショット数を必要とする原因となっている. 本課題を解決するため,2020年度では全く新しい光学系の開発を並行して進める予定である.有効性が示された際,10~100倍少ないショット数でも分割パルス利用時と同等の測定が可能となり,更には試料環境の自由度も増すことから,物理の解明に重要な温度や磁場等の外場依存性の評価も可能となる.
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度に使用予定だった旅費がCOVID-19の感染拡大に伴う出張停止により使用できなかったため.余剰分は当初の計画には無かった新規光学系開発の費用の一部として利用する.
|