研究実績の概要 |
本申請課題では、硬X線分割遅延光学系とナノ集光システムとを組み合わせたX線スペックル可視度分光(X-ray speckle visibility spectroscopy, XSVS)法により、ピコ秒からナノ秒領域のメソスケールの“自発的な揺らぎ”の測定手法を確立することを目的としている。本目的の達成に向け、これまで反射型セルフシード法によるXFELの高輝度化やプローブXFELのパルス幅直接測定による時間分解能の評価、そしてターゲットの1つである純水の原子スケールの揺らぎ評価を達成し、当初提案した内容は概ね完了している。最終年度では、本手法のさらなる汎用化に向けた基礎検討を進めた。 分割遅延光学系を利用したXSVS法では、汎用化に向け、以下に挙げるような課題が見いだされた。(1) 2つのパルスXFELから発生した散乱スペックルの足し合わせを測定するため、スペックルのコントラストが最大値の半分にまでしか落ちず、十分な統計精度を得ることが難しい。(2) 独立した2つのパルスXFELを試料上で高精度に重複させる必要があるため、高い空間分解能を有するビームモニタを利用して定期的にポインティングの調整を行う必要があり、試料周りのセットアップに制限が加わる。これらの課題を解決するため、回転傾斜型結晶素子を利用した新たな光学系を試作し、評価を行った。本光学系の特徴は、XFELのパルス幅を連続的に10 fs ~ 50 psまで制御可能な点であり、スペックルのコントラストを0まで落とすことが可能である。さらに、シングルパルスの利用となるため、ポインティング測定用の診断系が試料周りに必要なくなる。SACLAにおいてストリークカメラを用いてパルス幅を評価した結果、想定通り最大約50 psにまでパルス幅を伸ばすことに成功した。
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