研究課題/領域番号 |
18K18490
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
後藤 文子 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (00280529)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 庭園芸術学 / 近代的空間形成概念 / 自然環境デザイン / 地景(ランドスケープ) / 近代庭園 / 近代建築 / 植物利用 / 有機的色彩 |
研究実績の概要 |
本年度も当初計画で掲げた「基礎調査研究」と「3つのクロス・ディシプリナリー・プロジェクト(以下、CdP)」を軸に研究を遂行した。まず、「3つのCdP」のうち第一のCdPを前年度より継続した。すなわち、18世紀末にJ. W. v. ゲーテ(1749-1832)みずから造成と植栽に関与した「ゲーテ荘園の庭」(ヴァイマル)の、ゲーテ生誕200年を契機とする抜本的な修復(1948/49)の成果を近代庭園史に位置づける取り組みである。修復を主導した20世紀ドイツにおける最重要な多年生植物栽培家兼造園家カール・フェルスター(1874-1970)の取り組みを包括的な一次資料調査によって再構築した上で、ヴァイマル古典財団庭園部門ほかの園芸学専門家と連携し、そこでの植栽の特性、とくに自然的環境造形たる庭園空間における植物の有機的色彩効果の検証を目指している。現在までの研究成果を2019年度成果論文『ドイツ近代造園とゲーテ ── ヴァイマルの「ゲーテ荘園の庭」修復(1948/49年)を中心に』(2020年3月)にまとまた。庭園芸術学の構築に向けては、これと並行して第二のCdPを遂行した。すなわち、ヴァイマル・バウハウスにおいて造園建築家養成コース設置案(1924年)を提議したハインツ・ヴィヒマン(1898-1962)の活動について、出身地チェレ市アーカイヴほかでの一次資料調査により精査した上で、彼の活動の背景に庭園芸術学の最重要な建築家ペーター・ベーレンス(1868-1940)の空間形成論との密接な関連のあることを実証した。これについては第70回美学会全国大会(於:成城大学)において口頭発表「ヴァイマル・バウハウスと庭園芸術」(2019年10月13日)を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「3つのCdP」のうち第一のCdPである「ゲーテ荘園の庭」修復(1948/49)に関して、一次資料調査はほぼ終え、現在、ヴァイマル古典財団庭園部門の園芸学専門家と連携し、庭園空間における植物の有機的色彩効果を検証する段階に入っている。これは植物学および園芸学の専門知識を要する作業であるため、ヴァイマル、ベルリン、ミュンヘンの研究者の指導と協力のもと、園芸学および植物学を専攻するドイツの大学生の参画も得て進めてゆく予定である。ただし、2019年度末より日本・ドイツともに新型コロナウィルス感染拡大の影響下にあり、情勢を見極めながら今後の進展につとめたい。一方、第二のCdPに関しては、当初、ノーベル化学賞受賞科学者ヴィルヘルム・オストヴァルト(1853-1932)の色彩論と、先の第一のCdPにて検討対象とする「ゲーテ荘園の庭」修復を主導した多年生植物栽培家兼造園家カール・フェルスターの造園活動の関係を実証的に解明する予定であった。しかし、これについてはこれまでの進捗の経緯において、むしろ第一のCdPから得られる結果を前提として取り組むべきとの認識に至ったため、計画を修正し、理論的基盤としての20世紀における庭園芸術学の発展の解明を優先して進めることとした。この点に関し、ヴァイマル・バウハウスにおける庭園芸術をめぐる議論の検証を通して実証に成功したことは、本年度の重要な成果である。
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今後の研究の推進方策 |
過年度までの研究成果を総合し、20世紀における庭園芸術学の発展を実証研究の立場から明らかにすること、そしてその成果を学術論文、口頭発表等によって公表することが最終年度の目標である。当初計画では、CdPプロジェクトメンバーによる国際シンポジウムの開催を予定していたが、新型コロナウィルス感染拡大の現状を踏まえ、最終年度内の適切な時期での開催が困難であることも予想される。そのため、本課題を総括する成果を単行書の刊行によって実現したい。当面の成果発表として、第一のCdPに関するドイツ語論文を現在準備中のほか、庭園芸術学の発展に関する芸術学的考察ついては、前年度までの研究成果を雑誌『美学』(美学会、査読あり、2020年12月)および『芸術学』(三田芸術学会、査読あり、2021年2月)への投稿論文とする予定である。また、ドイツ美術史学会大会(2021年3月、査読あり、シュトゥットガルト)での口頭発表に応募予定(2020年5月頃公募開始)である。なお、現在も検証を進めている研究に関しては、次の通りである。本課題の中核的なCdPである「ゲーテ荘園の庭」修復(1948/ 49)において多年生植物栽培家兼造園家カール・フェルスターが追究した新しい近代庭園の可能性を、庭園という自然的環境空間における植物の有機的色彩効果の観点から実証的に解明する。この検討は、庭園芸術学の理論的基盤をなす新しい近代的な空間形成概念(アウグスト・シュマルゾウ、ペーター・ベーレンス)を、造形芸術、すなわち庭園という具体的なイメージの水準に接続させるもっとも重要な視座であると考えている。近代庭園における植物の有機的色彩とノーベル化学賞受賞科学者ヴィルヘルム・オストヴァルト(1853-1932)の近代色彩論との関係という問題は、まさにこの接合点において問われるだろう。著書の刊行をもって本課題の成果を総括したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
第一のCdPに関するドイツ語論考「一次資料に基づく「カール・フェルスターによるゲーテ研究」考 ―― ヴァイマルの二つの「ゲーテの庭」修復プロジェクト(1948/49)の背景として ――」(『慶應義塾大学アート・センター 年報/紀要』第27号、2020年7月刊行予定)の翻訳作業が2020年度にまたがり、その支払いが未完了であること、また、2020年春に予定していたドイツでの共同研究打ち合わせが新型コロナウィルス感染拡大の影響により実施できなかったため、そのための旅費が未使用となったことが主たる理由である。前者については、2020年度5月~6月頃に支払いの予定であり、後者については当面、渡航が難しい状況であるため、さらなる論文翻訳など主に海外での成果発表に係る経費に充当する計画である。
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