研究課題/領域番号 |
18K18607
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研究機関 | 宮城大学 |
研究代表者 |
石川 伸一 宮城大学, 食産業学群(部), 教授 (00327462)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 料理の式 / ハイパースペクトルイメージング / 漬物 / 浸透 |
研究実績の概要 |
漬物の研究は、漬物の組織を破壊し、抽出して成分含量を測定する場合が多く、それらの空間的配置や分布を配慮しない場合が多い。本研究では、成分の濃度分布が不明確な野菜の漬物において、スペクトル情報を取得できるハイパースペクトルイメージング技術を用い、成分の浸透を可視化し、最終的には観察に基づいた「料理の式」を作成することを目的とした。 食塩(NaCl)溶液とL-グルタミン酸ナトリウム(GluNa)溶液を調整し、異なる色素を添加したものに、ダイコン、キュウリ、ハクサイを漬けた。それぞれの条件で漬けた試料の中心をカットし、断面をハイパースペクトルカメラで撮影したのち、傾き解析にて画像解析を行った。また、①NaCl→GluNa、②GluNa→NaCl、③NaCl+GluNaの3つの条件で漬けた試料をサンプルとし、官能評価を行った。 その結果、ハイパースペクトルイメージングにより、漬物における成分の浸透を可視化させ、浸透率を算出することができた。NaCl・GulNaの二つの成分を交互に漬けたダイコンとハクサイのサンプルでは、解析画像および浸透率の結果から、初めに漬けた成分よりも、後から漬けた成分のほうがより浸透していることがわかった。 算出した浸透率をもとに、漬物の「料理の式」を作成した。漬けた成分が食材の50%以上浸透している場合を分散:/(分散質/分散媒)、50%未満である場合を抱合:⊃(中身⊃外身)とした。方法①NaCl→GluNaの条件で漬けたダイコンのサンプルは、NaClの浸透率は48%、GluNaの浸透率は85%であったことから、ダイコンをS、GluNaをW1、NaClをW2とし、(W1/S)⊃{(W1+W2)/S}と表した。食品中の成分の濃度分布を可視化し、より正確な「料理の式」を作成することにより、これらの空間的配置がおいしさに与える影響を解明することにつながると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のゴールは、「私たちがその料理をその料理として認識しているものは何か」を探し出すことである。これまで、揚げ物、煮物などの料理を観察に基づいた「料理の式」を作成し、料理を物理学的な視点で見ることで特徴を探ってきた。さらに、昨年度は漬物の観察をハイパースペクトルイメージングで可視化することに注力して実験を行ってきた。 人が野菜などの漬物を作る際に、どのようなことを期待しているか、漬物の成分がどのように野菜に浸透していくか、どのような漬物をよりおいしく感じるのかなどを試験してきた。漬物という限定された料理ではあるが、料理を「料理の式」で記号化することで、漬物の特徴の一端は明らかにすることができた。 本研究によって、各種調味料の漬ける順番を変えることによって、うま味を増強した漬物やおいしさを維持しながら減塩化に役立つ漬け方など、開発に繋がる知見もみられた。
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今後の研究の推進方策 |
食用色素での染色とハイパースペクトル画像の傾き解析により、漬物における成分の浸透をRGB画像よりも明確に可視化させ、面積あたりの浸透率を算出することができた。成分や漬ける野菜の種類によって、浸透における類似点や相違点を明らかにすることができた。 実験手法についてはさらなる改良が必要であると考える。特に、試料をカットする際に、包丁に色素が付着し、実際に染まっていない部分へ色素が移ってしまったことや、撮影に時間がかかり、すべてのサンプルを同条件で撮影できていない可能性がある。すべての試料を調理後の状態で固定できればより正確に構造観察を行うことができると考える。 官能試験の結果と塩分含量の測定結果より、食塩で漬けたあとにグルタミン酸で漬けたサンプルは、塩分含量が少なく、うま味は強いという評価が得られたため、減塩化に役立つ漬け方であるといえる。 観察、解析画像から算出した浸透率をもとに、より料理構造に着目した「料理の式」を作成し、料理の特徴を示すことができた。成分の浸透率をもとに式化を行ったが、今回の実験において浸透率は、成分が浸透したと考えられるピクセル数をカウントし面積比で算出したため、浸透の濃さについては配慮していない。浸透した面積だけでなく、その濃さについても数値化することができれば、より正確な「料理の式」を作成することができると考える。「料理の式」には、料理の分類や新しい料理の開発など様々な活用法があるが、まだ基準の見直しや改訂が必要である。また、同じ料理でも調理法や食材、条件によっては式が変わることが考えられるため、様々な料理を観察し、式化を行う必要がある。 食品中の成分や調味料の成分分布、濃度分布を可視化、「料理の式」を作成することにより、これらの空間的配置がおいしさに与える影響を解明することなどにつながると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費(消耗品関係)の使用が少なくて済んだため。
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