研究課題/領域番号 |
18K18736
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
久保園 芳博 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 教授 (80221935)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 電界効果トランジスタ / トポロジカル絶縁体 / 超高圧 / キャリアドーピング / 超伝導 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、トポロジカル絶縁体のような物理的に魅力的な電子状態を有する物質群を活性層として電界効果トランジスタ (FET)を作製し、高濃度キャリアを電界効果によって注入し、10 GPa以上の圧力を印加して超伝導のような物理的に興味深い物性を見つけ出すことである。この目的を達成するために、研究を以下の方法により遂行している 当初予定に従って、トポロジカル絶縁体として、Bi2-xSbxTe3-ySey (x = 0, y = 3でBi2Se3)単結晶を用意し、これの電子状態を角度分解光電子分光 (ARPES)で調べた。これよって、フェルミレベルの位置とディラックポイントの位置が、xの値とともに系統的に制御できることを確認した。次に、x=0, 0.25, 0.5ならびに1.0のBi2-xSbxTe3-ySey 単結晶試料に対して、電気抵抗を1.5 Kから300 Kの範囲で測定して、常圧で超伝導が観測されないことを確認した。これに0-15 GPaの範囲で圧力を印加して、電気抵抗を上記の温度範囲で測定して、3 GPa以上で超伝導が出現することを確認した。超伝導転移温度は圧力の印加とともに上昇していくことが見いだされた。また、圧力下でのX線回折測定を行って、この試料は0から30 GPaの圧力領域で3ないし4つの結晶構造相を取るが、構造相転移に伴って超伝導転移温度が非連続的な変化をするなどの特性は見いだされなった。この結果は、論文として現在投稿中である。 イオン液体を使ったFETを作製するために、上記単結晶を活性層とするデバイスを作製して、ダイヤモンドアンビルセルに設置するための予備実験を行っている。これまでの予備実験の結果、ダイヤモンドキュレットサイズを、通常のものより大きくすることとし、最初に活性層として有機薄膜を用いて2端子測定で高圧FET動作を確認することにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定に従って、トポロジカル絶縁体であるBi2-xSbxTe3-ySey (x = 0, y = 3でBi2Se3)の基本物性と、圧力下での構造と電気特性を調べる実験を 2018年度中に実施した。具体的な成果としては、角度分解光電子分光 (ARPES)から、フェルミレベルとディラックポイントの位置が、xの値とともに系統的に制御できることを確認した。xの値を 0, 0.25, 0.5ならびに1.0と変えたBi2-xSbxTe3-ySeyにおいて、3 GPa以上で超伝導が出現することを確認した。また、超伝導転移温度は圧力の印加とともに上昇していくことが見いだされた。超伝導転移温度の磁場依存性から、超伝導がp波カップリングであることを明らかにした。現在、上記の試料からBiを抜いたSb2Te3-ySeyの基本物性を調査中である。 Bi2-xSbxTe3-ySey単結晶を活性層として、イオン液体をゲート絶縁体とする電気二重層(EDL) FETを作製して、ダイヤモンドアンビルセルに設置するための予備実験を行ってきた。これまでの予備実験の結果、ボトムゲート型のFETデバイスの場合には、圧力を印加すると、ソース・ドレイン電極とゲート電極が接触してショートしてしまうことが明らかになった。したがって、デバイス構造をサイドゲート型として、イオン液体を活性層近くに設置し、大きなキュレットサイズのダイヤモンドで活性層を押す構造にすることとした。また、活性層をトポロジカル絶縁体単結晶にする前に、扱いが簡単な有機薄膜にして、圧力下のFET動作を確認することにした。その上で、活性層をトポロジカル絶縁体に変えて、圧力下のFET動作を確認することにした。これまでに、有機薄膜を活性層とし、イオン液体をサイドゲート型で配置してFET動作を確認した。このように、当初予定に概ね従って研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、トポロジカル絶縁体であるBi2-xSbxTe3-ySeyの基本的な圧力下の超伝導特性評価を終了し、現在、トポロジカル絶縁体であるSb2Te3-ySeyの圧力下の基本物性評価を行っている。更に、トポロジカル絶縁体の単結晶を活性層とするFETデバイスを作製して、ダイヤモンドアンビルセルに設置するための予備実験を行ってきた。予備実験の結果、ボトムゲート型のFETデバイスの場合には、圧力を印加すると、ソース・ドレイン電極とゲート電極が接触してショートしてしまうことが明らかになった。したがって、デバイス構造をサイドゲート型として、イオン液体を活性層近くに設置し、大きなキュレットサイズのダイヤモンドで活性層を押す構造にすることとした。また、活性層をトポロジカル絶縁体とする前に、取り扱いやすい有機薄膜にして、圧力下のFET動作を確認し、その後にトポロジカル絶縁体で圧力下のFET動作を確認するという計画を立てた。 現在までに、有機薄膜を活性層としイオン液体をサイドゲート型で配置したFETデバイスでFET動作を確認した。今後、3か月のうちに、イオン液体をゲート絶縁体とする有機薄膜EDL FETを使って、圧力下でのFET動作を実現することにする。一方、Bi2-xSbxTe3-ySey単結晶を活性層とし、イオン液体をゲート絶縁体とするEDL FETを作製して、今後、3か月程度のうちに、常圧でのFET動作を確認する。秋以降に両者の技術を結び付けて、Bi2-xSbxTe3-ySey単結晶 EDL FETの動作特性を圧力下で観測できるようにする。これを本年12月までに行う。最後の3か月間で、Bi2-xSbxTe3-ySey単結晶 EDL FETを使ってゲート電圧印加時の電気輸送特性の温度依存性を調べて、超伝導特性などの興味深い特性を調べるとともに、Sb2Te3-ySey単結晶を使って同様な実験を行う。
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