研究課題/領域番号 |
18K19281
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中山 啓子 東北大学, 医学系研究科, 教授 (60294972)
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研究分担者 |
城田 松之 東北大学, 医学系研究科, 講師 (00549462)
舟山 亮 東北大学, 医学系研究科, 助教 (20452295)
中川 直 東北大学, 医学系研究科, 助教 (30707013)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 遺伝子増幅 / TGF-β刺激 / Myc遺伝子 / シグナル伝達経路 |
研究実績の概要 |
遺伝子の過剰な増幅を誘導するシグナル伝達経路を明らかにすることが本研究の目的である。 私たちは、TGF-βシグナルの活性化が、特異的にかつ再現性を持ってマウス染色体15番上のがん遺伝子myc を含む領域とその近接する領域の遺伝子増幅を誘導することを見出している。そこで、このシステムを活用して、遺伝子増幅を誘導するファクターの同定を試みている。 今年度は、遺伝子増幅を起こすシグナル経路の探索を行った。まず、TGF-β刺激によってどのようなタイムコースで増幅が起こるか探索を行った。まず、刺激後7日目、28日目のRNA シークエンス結果を解析した。7日目は、遺伝子増幅前であり、28日目は、遺伝子増幅後である。この2つの転写プロファイルの変化を調べ、遺伝子増幅を誘導するシグナル経路の同定を現在試みている。 また、TGF-βの下流分子として知られているSMAD2遺伝子の欠失細胞をCRSPR Cas9システムを活用して作製を試みた。しかし、遺伝子欠失細胞を取得することができず、現在、SMAD2発現誘導株を作製し、SMAD2の遺伝子増幅へ関与を検討を行う方向へ研究方針を転換した。 TGF-β刺激によって遺伝子増幅領域に存在するタンパク質を探索するために、遺伝子増幅領域に特異的に結合する3xFLAG-dCas9を作製し、その局在について現在調べている。いくつかの特異的に結合するgRNAを試みているが、遺伝子増幅後にも結合する3xFLAG-dCas9が得られておらず、遺伝子増幅によってクロマチン状態が変化したためであろうと考察している。そのためより高い発現量を持つ3xFLAG-dCas9タンパク質の作製が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予定していた実験を行ったものの、期待したような成果が得られていない。 1つ目は、SMAD2ノックアウト細胞の作製である。今回私たちは、乳癌細胞株であるNMuMG 細胞を用いて、CRSPR-Cas9 を用いて、SMAD2の遺伝子欠損を試みた。しかし、タンパク質発現量を半減することはできたが、欠失はできていない。そのため、遺伝子増幅にSMAD2シグナルが必要であるかどうかを決定することができていない。今後は、むしろTGF-βなしに、恒常活性型SMAD2を過剰発現して遺伝子増幅に対する効果を調べる。 遺伝子増幅部位に存在するタンパク質の同定については、3xFLAG-dCas9の発現プロモーターの調整と、適当な遺伝子増幅状態を選ぶ事を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、TGF-βによる遺伝子増幅が細胞内のどこで観察されるのかを確認する。TGF-β刺激後、時間経過を追って細胞を回収し、FISH (Fluorescent in situ hybridization)によって、この増幅した遺伝子が細胞内のどこに存在するのかを確認する。また、増幅領域を選択的にキャプチャーして塩基配列を読み取り、遺伝子増幅が起こる特徴的DNA配列の存在の有無を確認する。また、3C (Chromosome conformation capture) 法によって増幅時の染色体構造の特徴を明らかにする。 遺伝子増幅を起こすシグナル経路の探索を行う。TGF-β刺激前、7日目、28日目のRNA シークエンス結果の解析によって、遺伝子増幅前である7日目と遺伝子増幅後の28日目で転写プロファイルの変化から、遺伝子増幅を誘導するシグナル経路の同定を試みる。TGF-βの下流分子として知られているSMAD2の恒常活性型変異タンパク質の過剰発現などを行うことで、遺伝子増幅に関わるシグナル伝達経路の確認を行う。加えて、TGF-β刺激によって遺伝子増幅領域に存在するタンパク質の変化(結合状態が変化するものやタンパク質修飾が変化するもの)を、遺伝子増幅領域に特異的に結合する3xFLAG-dCas9に結合するタンパク質を質量分析計で分析することで結合蛋白質を解析する。 また、遺伝子増幅が起こるAbcd2遺伝子領域に Caspase-ER(T2)遺伝子を挿入し、遺伝子増幅するとtamoxifenの培地添加によってアポトーシスが誘導できる細胞を作製する。この細胞にCRISPR-Cas9 ライブラリーシステムを用いて網羅的なゲノムスクリーニングを行う。アポトーシスを指標として遺伝子増幅に必要なシグナル経路の同定を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
SMAD2遺伝子欠失細胞を取得後にTGF-β刺激による遺伝子増幅を観察する事を予定していたが、SMAD2欠失細胞の取得に失敗したために、TGF-β刺激による遺伝子増幅を観察する実験を行うことができなかった。代替の実験計画として、SMAD2の恒常的活性化型遺伝子の導入とそれによる遺伝子増幅を観察する実験を計画している。その研究を本年度7月までに終了する予定であり、この実験に次年度使用となった研究費を当てる予定である。
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