研究課題/領域番号 |
18K19305
|
研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
緒方 一博 横浜市立大学, 医学研究科, 教授 (90260330)
|
研究分担者 |
仙石 徹 横浜市立大学, 医学部, 講師 (60576312)
浜田 恵輔 横浜市立大学, 医学部, 助教 (00344052)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
|
キーワード | 転写制御 / 転写因子 / ヌクレオソーム / エンハンソソーム / 定量解析 |
研究実績の概要 |
転写因子は遺伝子の転写制御において中心的な役割を果たすが、転写因子のエンハンサーへの作用機序については未だに不明な点が多く残されている。例えば、ゲノムDNAは単なるDNAとしてではなく、転写因子のDNA結合を阻害するヌクレオソームとして存在するが、ヌクレオソームに対して、転写因子群がどのようにして特異的な結合サイトを探し当て、結合し、転写を制御するのか、その素過程は不明なままである。これまでの解析から、転写因子群のヌクレオソームへの結合には、ヒストン修飾酵素、クロマチンリモデリング因子、ヒストンシャペロン等のタンパク質群や、それらによって引き起こされるヒストン修飾が必要であることが想定されている。本研究では、これらの因子がどのように協調してヌクレオソーム状態のエンハンサーDNAに作用して転写を活性化するのか、その詳細な過程を生化学的な再構成実験により明らかにすることを目的とする。 実験内容として、まず蛍光標識した180 bpからなるT細胞抗原受容体(TCRα)のエンハンサーDNAを含むヌクレオソームを調製して、個別に精製したRunx1やEts1等のTCRαエンハンサーを標的とする転写因子群と相互作用するか検証した。その結果、これら転写因子は、ヌクレオソームDNA上の標的配列が末端側に配置されたヌクレオソームに対して結合活性を示したものの、標的配列に変異導入したヌクレオソームに対しても同程度結合したことから非特異的なヌクレオソーム結合であることが示唆された。これらの結果よりヌクレオソームからエンハンソソームへの変換は、転写因子のみでは進展せず、別の因子の関与が示唆された。今後、ヒストン修飾酵素、クロマチンリモデリング因子、及びヒストンシャペロン等の共存下で、転写因子群とヌクレオソームの結合条件の解析を行い、ヌクレオソームDNA上にエンハンソソームが形成される過程を検証する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験試料の準備として、転写因子群(Runx1, Ets1, LEF1, 及びCREB)のDNA結合ドメイン、ヒストンアセチル化酵素p300、ヒストンメチル化酵素 NSD1の機能ドメイン、ヒストンシャペロンNap1、クロマチンリモデリング因子ACFの精製を高純度で行った。発現系としては、大腸菌やバキュロウイルスを用いた昆虫細胞を使用した。さらに、転写因子により認識される標的配列クラスターを有するTCRαエンハンサーDNA(180 bp)を蛍光標識し、それを含むヌクレオソームを塩透析法により調製した。また、実験の陽性コントロールとしてiPS細胞を生み出す転写因子Oct3/4及びSox2の標的遺伝子の一つであるLIN28BエンハンサーDNA(162 bp)を含むヌクレオソームも同様に調製した。 機能解析として、TCRαエンハンサーDNAを含むヌクレオソームに対して転写因子Runx1, Ets1, CBFβ, LEF1, 及びCREBを様々な濃度で加えることで、転写因子群によるヌクレオソームへの特異的な結合をゲルシフトアッセイにより検証した。その結果、これら転写因子は、ヌクレオソームDNA上の標的配列が末端側に配置されたヌクレオソームに対して結合活性を示したものの、標的配列に変異導入したヌクレオソームに対しても野生型と同程度の結合活性を示したことから、両者の結合は非特異的相互作用によるものと考えられた。同様に、陽性コントロールとして準備したLin28BエンハンサーDNAを含むヌクレオソーム対しても、過去の報告に反して転写因子Oct1やSox2による特異的な結合は検出されなかった。これらの解析から、ヌクレオソームからエンハンソソームへの変換は、転写因子のみでは進展せず、別の因子の関与が強く示唆された。今後、ヒストン修飾酵素、ヒストンリモデリング因子、ヒストンシャペロン等を測定に加え、ヌクレオソームと転写因子群の結合条件の解析を行う。
|
今後の研究の推進方策 |
1)転写因子には、DNA結合ドメインに加えて転写活性化領域等の転写制御に欠かせない機能性領域が存在するため、本研究では、転写因子の全長を用いて解析することを予定している。転写因子の全長タンパク質の準備状況として、Ets1やLEF1は精製を完了させたが、残り複数の転写因子では発現系の構築段階にある。これらの調製を早期に完了させて解析の系に加える。 2)これまでに転写因子群とヌクレオソームとの結合の解離定数をMicroScale Thermophoresis装置(NanoTemper Monolith)により定量解析したが、試料によってはシグナルの不安定化により測定が困難であった。実験方法を改善して、様々な組み合わせの転写因子とヌクレオソーム間の解離定数を解析する。 3)TCRα、及びLIN28BのエンハンサーDNAを含むヌクレオソームを再構築し、個別に精製した転写因子群、ヒストンメチル化酵素p300、クロマチンリモデリング因子ACF、ヒストンシャペロンNap1等を様々な組み合わせで作用させ、ヌクレオソームへの転写因子群の結合状態やヒストン修飾状態を解析する。さらに、予め酵素的にアセチル化やメチル化したヌクレオソームを調製し、転写因子群に対する反応の違いを検証する。これらの解析から、ヌクレオソームDNA上に複数の転写因子群からなるエンハンソソームが形成される過程、あるいは、ヌクレオソームからヒストンを競合的に追い出すために必要な因子は何か明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度において、全長の転写因子をはじめ、真核細胞の発現系を用いたタンパク質の調製や、MicroScale Thermophoresis(MST)装置による転写因子とヌクレオソームとの結合の定量的解析等が難航したため、当初の予想に反して実験の進度が遅れ、それに伴い予算配分の再検討が必要となった。次年度では、次年度に購入が想定される物品に加え、初年度に購入を予定していたタンパク質発現用の真核細胞培地、蛍光標識したDNAオリゴマー、MST測定用試薬等を発注する予定である。
|