研究課題/領域番号 |
18K19335
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
宮崎 多惠子 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (60346004)
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研究分担者 |
中村 亨 三重大学, 生物資源学研究科, 助教 (00402694)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 深海魚 / 海中分光分布 / 水深 / 視覚特性 |
研究実績の概要 |
計3回(4月、6月、11月)の研究航海を実施した。いずれの回も荒天に見舞われ、今年度の曵網による深海魚採集は計3回、CTDによる環境観測は計2回に留まったが、以下の成果が得られた。プランクトンネットはORIとIKMTを試験し、同じ曵網速度であれば採集される生物の状態に違いは無いことから、間口が広いIKMTが漁具として適当であると判断された。曵網は「深海」の定義である200mと、これより深い500m及び1000m 層で実施し、最も多種多様な深海魚が採集されるのは500m深付近であることがわかった。同水深層からはホテイエソ、ハダカイワシ、ムネエソ類が採集され、いずれも生命回復には至らなかったものの、ホテイエソは3 個体の成魚を得た。これらを船上で即座に開腹し、1 個体は未成熟、残り2 個体は雄と雌であることを確認し、生殖腺を摘出・切開して人工授精を行った。卵はCTDで採取した海水と受精卵をプラ容器に入れて船内冷蔵庫にて管理し、帰学後は滅菌海水を交換しながら冷蔵庫にて継続管理したところ、受精膜の形成、及び卵割まで発生を2週間まで記録することができた。一方、水族館における深海魚展示技術の向上を図るため、異なる波長光に対するアカムツの反応行動を調べた。展示水槽を白色,赤色(632 nm),緑色(516 nm)または青色(460 nm)LEDで照明し、魚の行動を24時間ずつビデオで連続撮影し、魚の特徴的行動を7つのパターンに分類して出現時間を解析した。その結果、赤色光下では立ち泳ぎの出現頻度が有意に高く、緑色光下では急に遊泳方向を切り替える突発遊泳が頻出した。昨年度に本種の網膜には複錐体細胞が優先し、緑視物質をペアで含むことを示しており、本種は緑色光に対する感受性が高いと考えられることから、緑色光下での突発遊泳は忌避反応であると推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は3回の研究航海を実施したものの、天候に恵まれず航海日程の短縮並びに調査海域へ不着があった。実施内容は計画の2~3割に留まったものの、オペレーション内容を船上で適宜見直し、昨年度に続き深海魚を効率的に採集可能な水深層を検討することができた。昨年度は比較的入手が容易な深海鮫やカサゴ類についての情報取得であったが、今年度はワニトカゲギス目やヒメ目といった典型的な深海性魚種について採集水深を検討した。その結果500m深付近が最も多種多様な種を採集できる層であることがわかった。この情報は今後の深海魚採集の効率化に有効であり、研究を加速する成果である。また、深海魚の水族館における展示方法については、異なる波長の照明下における深海魚の応答について行動実験を行い、昨年度までに解析した深海魚の色覚特性との関係を検討することができた。本実験のプロセスでは深海魚を行動実験に供する際の水槽の照明・撮影・解析方法等に関しても検討を行った。本プロトコルは他の深海魚の行動実験にも応用できるものである。 研究航海縮小による研究成果の低下をカバーするため、研究室所蔵の深海魚眼球サンプルについても解析をすすめた。一般に深海魚と称される魚の網膜は、複錐体が占有するもの、錐体を持たず桿体細胞のみのもの、網膜部位により両細胞の分布が異なるものなど様々な報告がある。そこで「深海魚の網膜組織の特徴」を定義することを目的とし、約1000mの水深差で鉛直方向に適応分散するサバ亜目魚類について網膜組織解析を行った。その結果、本亜目魚類においては、水深200m以深で純桿体細胞網膜を持つようになることを示唆することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
今年度6月に計画していた研究航海は新型感染症の影響によりすでに中止となったため、新規の深海魚入手は困難となった。また水族館においての行動実験についても同理由により実施の目処が立っていない。そこで今年度は網膜組織解析とオプシン遺伝子解析による「深海魚の視覚特性を定義する」を課題とする。昨年度に1000mの水深差で鉛直に適応分散するサバ亜目魚類について網膜組織の網羅的解析を行い、これら魚種の採集水深と比較したところ、200m深層で特徴に明らかな違いがあることを確認した。この結果を受け、研究室に保管してある他の魚類グループについても解析を行い、この定義の是非を確認する。また、昨年度に採集したワニトカゲギス目・ヒメ目魚類標本については眼球以外の組織について解析をすすめ、深海魚の生物生理学に関する情報を蓄積していく。一方、当研究室が参画する2019年度水産庁南極海オキアミ調査で得た深海性魚類についても組織学的並びに分子生物学的解析をすすめ、深海魚の生物学的特性についての知見を集積していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していた3回の研究航海がいずれも悪天候の影響を受けたため、旅程、標本獲得数が減少した。このため旅費および飼育実験を始めとする実験解析費の支出が大幅に縮小した。今年度も新型感染症の影響で研究航海や行動実験が実施できないため実験計画を変更せざるをえず、支出が大幅に減少する可能性が大きい。今年度は前年度までに取得したサンプルの組織解析及び遺伝子解析に注力し、これらの試薬等消耗品に費用を充てる。また、これまでに取得したデータをまとめて学術論文として投稿するための英文校正に充当する。なお、秋期以降も研究航海が不可能な場合は予算の使途が無くなるため本課題の1年延長を視野に入れる。
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