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2020 年度 実施状況報告書

深海魚を採る・飼う・調べる技術開発による日本の深海魚研究の地盤固めへの挑戦

研究課題

研究課題/領域番号 18K19335
研究機関三重大学

研究代表者

宮崎 多惠子  三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (60346004)

研究分担者 中村 亨  三重大学, 生物資源学研究科, 助教 (00402694)
研究期間 (年度) 2018-06-29 – 2022-03-31
キーワード脳外形 / 消化管 / 桿体層状構造 / ロドプシン
研究実績の概要

11月に規模・人員を縮小した調査航海を実施し、IKMTネットによる水深600mからの深海魚採集を3回、ならびにCTDによる環境観測を2回行った。得られた魚種はワニトカゲギス目とハダカイワシ目であった。これらは回収時にはすでに瀕死状態であり、蘇生処理はせずにホルマリンまたはブアン氏液に浸漬、または遺伝子解析のための処理を行った。個体は例年より小型(体長2~7cm)であり、開腹したものの人工繁殖に供することはできなかった。
ヨコエソ科とトカゲハダカ科については、種が得意とする感覚を反映する魚類脳外形、ならびに食性との関連が推定できる消化管組織を解析した。ヨコエソとオニハダカの脳は嗅球が発達していた。前者の胃は食いだめができる形状であり、消化管組織は後者において吸収上皮細胞が長く,相対的な吸収面積が大きかった。これらより、小型な後者は少ない摂餌量を補填するために消化管の吸収効率を上げて必要な栄養を得ていると推察された。一方、ホホジロトカゲギスとトカゲハダカの脳は視蓋が発達していた。大型化する前者の胃は筋層が厚く,腸は腸絨毛が長くひだ状で吸収効率が高い特徴を示したことから、大きな餌生物の消化吸収に適していると考えられた。
ハダカイワシ科については網膜組織構造解析と視物質遺伝子の単離を行った。準超薄切片の観察からは桿体細胞が2~3層の層状構造形成していることがわかった。これは深海性魚類における暗所適応の特徴として知られているが、1000m以深に生息する種では20~30層であるとの報告があり、ハダカイワシ科はこれらより浅い中深層に適応していると推察された。ロドプシン遺伝子はRT-PCR法とRACE法により各魚種から1種類ずつが単離された。これらの配列を比較したところ、本科を構成する2亜科は、互いの亜科ではアミノ酸変異が認められるものの、亜科内での変異は少ないことがわかった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

新型感染症の影響で中止となっていた研究航海が11月にようやく許可されたものの、規模・人員を縮小しての実施となった。初日にCTDで水温鉛直分布を調査したところ、黒潮蛇行の影響で水深80m付近まで約23℃と高いことが把握された。このことから、深海魚を船上に回収する際の水温によるダメージが大きいと判断し、船上での蘇生実験を中止した。前年度までは荒天により深海魚の採集も不十分であったため、深海魚の蘇生技術開発は遅延している。
一方で、採集された深海性魚類の種判定をルーチン化できる遺伝子領域を選抜できた。また、解剖学的、組織学的、ならびに分子生物学的方法による食性や視覚生理機能の解析については着実にすすめることができた。数種の脳外形を解剖学的に比較解析したところ、所有の深海魚類群を視覚依存型と嗅覚・側線感覚依存型の2グループに大きく分けることが出来た。さらに消化管の組織解析を行ったところ、上記の視覚型/嗅覚・側線型にかかわらず、獲得する餌の量による違いが反映されていることがわかった。これらの解析を他の魚種についても行うことで、深海魚の餌の獲得戦略と感覚器との関係、ならびに栄養摂取戦略と消化器との関係を整理できる可能性が見出された。
視覚器については網膜組織学的解析から,ハダカイワシ類は他の深海魚よりも桿体層状構造の層数が少ないことがわかった。一方で、視物質を含む外節は太いこともわかった。これら形質の比較解析結果から、桿体層構造と桿体視細胞の大きさについての総合的な判断により、種の適応水深を推定できる可能性が見えてきた。またロドプシン遺伝子はハダカイワシ科魚類について単離をすすめ、本科を構成する2亜科間ではアミノ酸変異があるが、それぞれの亜科内においては保存性が高い可能性を見出すことができた。

今後の研究の推進方策

深海魚の脳外形解析による種における得意な感覚器の推定、ならびに消化管の形状と組織解析による食性および栄養摂取戦略の推定をすすめる。視覚器についての解析は、ハダカイワシ科で実施してきた、深海魚における暗所適応の指標となり得る桿体細胞の層状構造と桿体細胞の外節サイズの解析をすすめる。またロドプシン遺伝子についても多種多様な種について全長配列を決定し、アミノ酸配列のキーサイトを指標とした最大吸収波長の推定を行う。海洋観測により得た光量子量データからは、水深における明るさを計算する。これらの結果を総合的に比較解析することにより、各深海性魚類が最も適応していると考えられる水深、ならびに摂餌生態の特徴を推定する。同時にこれらを種分化系統樹と比較解析することにより、深海性魚類における種分化と光環境適応との関係について総合的な考察を行う。
一方、船上での人工繁殖に関しては、これまでの実施結果から深海魚は成魚でもサイズが非常に小さく、体長から成熟を見極めることは非常に難しいことがわかった。そこで人工授精技術の基盤作りとして、所有する標本全てについて生殖腺重量/体重比を求めると共に、組織標本作製による成熟度の判定をすすめる。これらを総合的に解析し、体長と成熟度の関係を明らかにすることにより、船上において人工授精に供する個体を簡易的に選抜可能な指標を作る。

次年度使用額が生じた理由

研究航海が新型感染症の影響で十分な内容で実施できず、旅費および飼育実験を始めとする実験解析費の支出が大幅に縮小した。実施年度を延長し、最終年度はこれまでに実績が出ている解剖、組織、および分子生物学的解析に重点を置く方向に計画を変更し、深海性魚類研究を様々な観点からすすめることのできる基盤をまとめる予定である。

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公開日: 2021-12-27  

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