研究課題/領域番号 |
18K19339
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宮下 英明 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (50323746)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | クロロフィル e / 黄緑藻類 |
研究実績の概要 |
本研究は、1940年代に天然から採取された黄緑藻類から検出される微量の色素として報告されたクロロフィル eについての3つの可能性、1)天然には存在せず色素抽出過程において生成したもの、2)黄緑藻ではなく黄緑藻に付着していた他の藻類が生産したもの、3)特定の環境条件によって誘導される誘導色素、を考えながら、天然の黄緑藻類の採集、色素組成分析、黄緑藻類/付着藻類の分離、系統保存株の購入、各種光質条件下での培養、培養細胞の色素組成分析等により、長きにわたる藻類学の「謎」に一定の理解を与える一助とすることを目的としている。 本年度は、大学敷地内にある人工池から黄緑藻フシナシミドロ(Vaucheria sp.)を採集し、観察・培養を試みた。4月期のフシナシミドロには多量の藻類が付着していた。主な付着藻類はクサビケイソウ属(Gomphonema spp.)の珪藻類であった。また、水温が上昇する5月期には珪藻に加え糸状緑藻スティゲオクロニウム(主にStigeochlonium sp.)が付着・生育していた。6月中旬にはフシナシミドロが殆ど観察さず、3月に再出現した。3月の時期のフシナシミドロには付着藻類が少ないことがわかった。天然のサンプルについて色素組成分析したところ、フシナシミドロには含まないフコキサンチンが多く検出され、付着珪藻にの色素が大きく影響していた。1940年代の色素分析の際にも付着藻類の影響があった可能性が高まったものの、クロロフィル eの再発見には至っていない。フシナシミドロの分離・培養を試みたが、付着藻類が優勢してしまったこと、培養時の照射光が強すぎて白化したことにより成功しなかった。また、保存機関より入手したフシナシミドロについても、大量培養を試みる前に白化してしまい、これも培養時の照射光が強すぎて白化してしまった可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
安定的な培養株の確立を除いて、ほぼ、計画通りに進行している。本年度は、①天然の黄緑藻類の採集、②天然サンプルの色素分析、③黄緑藻類ならびに付着する藻類の分離、④系統保存株の収集を中心に行うことを目的とした。天然の黄緑藻類の採集については、大学敷地内にある人工池から黄緑藻フシナシミドロ(Vaucheria sp.)を採集し、観察・培養を試みた。4月における人工池におけるフシナシミドロには多量の藻類が付着していた。主な付着藻類はクサビケイソウ属(Gomphonema spp.)の珪藻類であった。また、水温が上昇する5月には珪藻の加え糸状緑藻スティゲオクロニウム(主にStigeochlonium sp.)が付着・生育していた。6月中旬にはフシナシミドロが殆ど観察されなかった。3月に再出現した。3月の時期のフシナシミドロには付着藻類が少なかったことから、この細胞を用いて再度培養を試みている。②天然のフシナシミドロサンプルの色素組成分析したところ、フシナシミドロには含まないカロテノイドであるフコキサンチンが多く検出された。このとから、1940年代に分析されたフシナシミドロの色素分析の際にも付着藻類が影響していた可能性が高まった。クロロフィル eの再発見には至っていない。③黄緑藻類ならびに付着する藻類の分離においては、付着緑藻スティゲオクロニウムや一部の付着珪藻などの集積培養には成功したものの、フシナシミドロの分離・培養には成功しなかった。原因としては、付着藻類が優勢してしまうこと、培養時の照射光が強すぎて白化してしまった可能性が考えられた。また、④系統保存株の収集においては、保存機関よりVaucheria frigida 株を入手したものの、実験用の大量培養を試みる前に白化してしまい、これも培養時の照射光が強すぎて白化してしまった可能性が考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度も引き続き、①天然の黄緑藻類の採集、②天然サンプルの色素分析、③黄緑藻類ならびに付着する藻類の分離、④系統保存株の収集をおこなうほか、⑤各種光質条件下での培養、⑥培養細胞の色素組成分析にも着手する。①天然の黄緑藻類の採集については、採取地点を増やすことによって、フシナシミドロに付着する藻類の多様性や藻類の付着にともなう色素組成分析結果への影響を明らかにする。また、黄緑藻トリボネマ(Tribonema sp.)の収集も試みる。トリボネマの収集にあたっては採取地、採取時期に関する既存の報告等を収集し、情報に基づいて採集をおこなう。③黄緑藻類ならびに付着する藻類の分離については、黄緑藻の生育に対する光強度の影響を考慮しながら安定的な培養系の確立をはかる。また、フシナシミドロの卵からの培養を試み、培養株の確立を試みる。④系統保存株の収集についても、光強度の影響を考慮しながら安定的な培養系の確立をはかるとともに、⑤各種光質条件下での培養を行い、それらの⑥培養細胞の色素組成分析にも着手する。
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