RSA暗号等の現代公開鍵暗号の安全性は、巨大数の素因数分解が困難であることを基礎として、秘密鍵からの公開鍵生成→公開鍵による暗号化→秘密鍵による復 号化に高い一方向性があることによって保障されている。一方で、理論的には量子コンピュータが素因数分解を高速に行えることが示されており(Shorの定理)、我々は非ノイマン型コンピュータ時代の新しい公開鍵暗号システムを考える必要がある。本研究では、物理空間における複雑性の高いDNA分子群の「空間的拘束を保った不可逆な切断」を基礎とした新たな公開鍵暗号システムBSG(Barcode Split Genetics)が、あらゆる計測技術、計算機の介入による情報の窃盗に対して極めて頑健であることを提案する。BSG暗号では、情報の受信者は DNAバーコード二つが連結されたものを大量に合成し、この連結DNAバーコード群の情報を秘密鍵とする。次に、それぞれをコンテナ内に包埋し、コンテナ内で連結DNAバーコードが切断されるような反応後、この連結バーコードが切断されたコンテナ群を公開鍵とする。情報の送信者は公開鍵を受け取り、ランダムにコンテナを1つ選び、ここに包埋されていた切断バーコードペアをDNAシークエンシングによって解読する。一つは平文の暗号化キーとして利用され、もう一つは暗号文とともにワンタイムパスワードとして受信者に送信される。受信者はバーコードの組合せ情報を秘密鍵として持つため、ワンタイムパスワードに対応する暗号化キーを知ることができ、暗号文を安全に復号できる。本研究では、その有効性を実証するために以下の項目を設定し、本年度もこれらを引き続き進めた。
(1) コンテナ型BSG暗号システムの概念実証実験 (2) 環状DNAチェーン化技術の開発
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