研究課題/領域番号 |
18KK0092
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
多田 隆治 千葉工業大学, 地球学研究センター, 招聘主席研究員 (30143366)
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研究分担者 |
田近 英一 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (70251410)
岡田 誠 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (00250978)
黒澤 耕介 千葉工業大学, 惑星探査研究センター, 上席研究員 (80616433)
鹿山 雅裕 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (30634068)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2022-03-31
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キーワード | 小天体衝突 / イジェクタ / オーストラリア-アジア・テクタイト / マイクロテクタイト / 衝撃変成石英 / 放射光XRD / 日本海 / IODP |
研究実績の概要 |
昨年度までにタイとラオスで採取した基盤岩試料について、衝撃変成石英の有無と含有率の測定を行った。その結果、タイのコーラッド高原東部およびラオス南西部のボラヴェン高原から150㎞以内の範囲で、衝撃変成石英を見出した。更に基盤岩中の石英について、放射光XRDにより格子体積を調べたところ、ボラヴェン高原の東450㎞から70㎞にかけて格子体積が徐々に増加する事が示された。衝突実験から衝撃圧の増加に伴って格子体積が増加することが知られており、衝撃変成石英の分布と併せ、衝突地点がボラヴェン高原にあることが示唆される。 本年度11/18~12/4にかけて、研究代表者とタイ2名、イギリス1名、日本1名の研究協力者の計5名で、ラオスとカンボジア調査を行った。前年度までの調査、分析結果からラオス南部のボラヴェン高原が衝突地点である可能性が高まったため、高原を周回するルートとその北方地域の調査を行い、基盤岩およびイジェクタ層(衝突によりクレーターから放出された破砕物の堆積層)の柱状図作成と試料採取を行った。また、カンボジアにおいても同様の調査を行った。 日本海堆積物におけるマイクロテクタイト(MT)層探索については、前年度末に高知コアセンターで採取した試料の>4um画分を鏡下で観察した結果、U1422, 1426地点でMTを発見した。MTは直径100um程度で無色透明の球形が多く、EPMAによる分析結果は、その組成がオーストラリア-アジアテクタイト(AAT)と同一であることを示した。発見したMT層準は700km以上離れた両地点で同じ層位学的位置にあり、再堆積の可能性は排除される。LR04酸素同位体比変動曲線との対比に基づくMT層準の推定年代は80.7万年前で、従来推定されていた年代の下限値に近い。この発見により、AATの分布範囲は、従来言われているより北東側に2000km近く広がった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度までの調査結果および採取した試料の分析により、イジェクタ層の認定を行うとともにその堆積機構を明らかにした。この結果は、指導大学院生で研究協力者の多田(賢)が第1著者となって現在、MAPS誌に投稿中である。また、イジェクタ層の認定の際の重要な根拠となる現地性テクタイトの発見と産状の記載に関しても多田(賢)が第1著者となって現在、PEPS誌に投稿準備中である。更に、イジェクタ層の層厚および岩相の地理分布については、イギリスの研究協力者Carlingが第1著者となり、投稿準備中である。 これまでの調査、分析結果から、ラオス南部ボラヴェン高原が衝突地点である可能性が極めて高くなった。そこで今年度は当初の調査予定を一部変更して、ラオス南部の追加調査を実施し、それに引き続いてカンボジア調査を行った。また、当初予定していたベトナム調査については、現地の研究協力者が緊急入院となったため、来年度に延期した。また、本年度夏には、当初千葉セクションでの試料採取を予定していたが、研究代表者が入院、手術となったため、これも来年度に延期した。 当初今年度に予定していたJpGU国際セッションでの成果発表については、海外の研究協力者(Carling, Songtham)の準備が十分でなかったこと、来年度にJpGU-AGUのjoint meetingが予定されていたことから来年度に延期し、今年度は、JpGUなどにおいて国内向けの発表を行った。また、来年度のJpGU-AGU meetingに対して、本研究プロジェクトに直接関係するテーマの国際セッションを海外研究協力者と共に申請し、承認された。 日本海堆積物におけるマイクロテクタイトの探索については、2地点で発見したが、産出の下限を押さえられず、1地点では産出層準を外してしまったので、追加試料採取の申請を行い、3月中旬に高知コアセンターで追加試料採取を行った。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、イジェクタ層が認定され、その層厚と粒度、それらの地理的分布が明らかになってきた。今後は薄片観察や化学分析によりイジェクタ層の粒子組成とその地理的分布を復元し、その結果を基に、衝突の標的となった地殻の岩型とその異方性を明らかにする予定である。また、イジェクタ中の炭質物の燃焼温度を推定してその地理分布を復元することにより、高温燃焼領域を推定する予定である。 基盤岩における衝撃変成石英および放射光XRDによる石英の格子体積の地理的分布については、今までに行った分析結果に今年度調査を行ったボラヴェン高原周辺及びカンボジア、来年度に行う予定のベトナム調査で採取予定の基盤岩試料の分析結果を加えてそれらの地理的分布を明らかにし、これらの結果をまとめて、衝突地点、規模、様式の特定を行う予定である。 日本海堆積物中のマイクロテクタイトについては、本年度末に追加採取した試料についてもマイクロテクタイトの産出とその数の測定を行い、日本海内の3地点においてマイクロテクタイトを産出する層準が同一であることを示すとともに、そのフラックスを明らかにする予定である。また、日本海で明らかにしたマイクロテクタイト層準の時代に基づいて、千葉セクションにおいて試料採取を行い、マイクロテクタイト層準の特定を行うとともに、その層準前後での海面温度、炭素同位体比を復元し、AATEによる小天体衝突の環境への影響を評価する。また、オスミウム同位体比の時代変化についても復元し、衝突した小天体の大きさの復元も試みるつもりである。 そして、これらの結果をもとにAATEによる小天体衝突のシミュレーションによる再現を試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初本年度に予定していたベトナム調査、千葉セクションにおける試料採取・分析、JpGUにおける国際セッション開催を次年度(令和2年度)に延期したため、そのための予算を翌年に繰り越すことにより次年度使用が生じた。但し、本年度に当初予定していなかったラオス南部追加調査を行ったため、本年度はその分余分に経費を使用している。 次年度については、5月末のJpGU-AGU合同国際大会において、AATEに関するセッションを企画し、海外から4名の研究者を招待する予定で準備を進めていたが、COVID-19の感染拡大で大会は延期となり、ネット大会に切り替えられる見込みである。従って、国際セッションはネットを使って行うことになる。千葉セクションにおける試料採取はCOVID騒ぎが落ち着くのを待って7~8月頃に行い、次年度後半に試料の前処理および分析を、アルバイトを雇って行う予定である。ベトナム調査は、次年度末の2-3月辺りでの実施を予定しているが、COVID-19の感染が沈静化しない場合は、更なる延期も考える必要がある。 次年度使用の予算1,624,909円の使用内訳としては、千葉セクションでの試料採取に10万円、試料の前処理および分析に60万円程度を予定している。ベトナム調査は研究協力者3名を含めて4名で7日程度を予定し、92万円程度を見込んでいる。
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